子どもをいじめから守るために親ができることは。『家族全員でいじめと戦うということ。』著者・さやけんさんが読者へ伝えたい思い
子どもが普段通りに過ごしている様子を見ると、保護者はまさか自分の子どもがいじめにあっているだなんて夢にも思わないはずです。 実話をもとにしたコミックエッセイ『家族全員でいじめと戦うということ。』の主人公・ナツミも、毎日楽しそうにしている娘のハルコがいじめに遭っていることに全く気付きませんでした。しかも、娘が4年間もそれを隠し通してきたことを知って衝撃を受けるのでした……。 【漫画を読む】『家族全員でいじめと戦うということ。』を読む 「子どもに関わる全ての人に伝えたい――」 著者のさやけんさんに、この作品についてお話を伺いました。 ■「絶対に負けない…」家族全員で娘の笑顔を取り戻す 【あらすじ】 主人公のナツミは、小学5年生の娘・ハルコが4年間にわたって学校でいじめを受けていたこと、そのことをずっと隠して通学し続けていたを知って愕然とします。家族にいじめのことを知られたハルコは、学校に行こうとするとストレスからか歩けなくなってしまいました。 ハルコは学校を休むようになり、ナツミの夫・アキオは転校を提案します。しかしハルコと同じ学校に通う弟・フユタの気持ちを思うと、ナツミは決断することができませんでした。 しかしそんなある日、フユタは同級生から姉ハルコのことを悪く言われて喧嘩になってしまいます。フユタも姉のことを思って悲しい思いをしていたのだと気づき、ナツミは家族を守るために引っ越すことを決断します。 学校との面談で、ハルコの担任が独断で実施した「いじめに関する無記名アンケート」の報告を受けたナツミは、担任に対して不信感を募らせます。しかし一方で、面談に同席した学年主任など、寄り添って力になってくれる人もいるのだと知ることができました。 ある夜、ふとしたきっかけからハルコの本当の気持ちをハルコの言葉で聞けるときがようやく訪れました。学校でのことをハルコが両親に話せなかった理由――それは、「友達を大切に思っていた」から。 4年間ハルコが抱えていたいじめの真相とは…? ■「読者へ伝えたいこと」著者インタビュー ―――この物語はさやけんさんのご友人の実体験だそうですね。この作品は子どもが隠し通したことで親が4年間子どものいじめに気付けなかった…というストーリーですが、大人は日ごろ子どもたちとどのように関わることが良いと思われますか? さやけんさん:はい、ナツミのモデルになった友人は転勤族で、学校関係での横のつながりはほとんどなかったそうですが、この一件の後の転校先では、積極的に保護者同士のつながりを持ち、家族内だけでなく人との付き合いも大切に過ごされたそうです。 子どもの性格もそれぞれなので、その子、その子によって対応も様々だと思います。また学校の行事や習い事、親同士の関わりは、面倒だと感じることも多いです。だけど我が子と過ごす時間はもちろん、親同士や学校の先生方、子どもたちの友達とも積極的に関わり、子育てしていくのが理想だと感じました。 ―――子どもとの関わりについて、さやけんさんご自身のご経験や、本作品を通して得た気付きなどがあれば教えていただきたいです。 さやけんさん:私自身、ママ友を積極的に作ったり連絡先を交換したりするのは苦手なほうなので、子どもたちが保育園時代は意図的にぼっちママを貫いていました。しかしここ数年はスポーツの習い事などを通じて保護者同士のつながりも増え、学校の先生との対話も増えたことで、親が知り得ない学校での過ごし方や友達同士の関係性などを知る機会もかなり増えました。 今でも自分から関わって遊びに誘ったりなどは全然できませんが(笑)面倒だから関わらないでおこう…と感じることが減り、共通の話題が増えたことで友達関係にもそういったポジティブな部分の影響も増えた気がします。 こうしたことが、子どもの微妙な変化に気づくきっかけになればいいなと思います。 ―――今、「いじめ」と戦い、向き合っているお子さんやその保護者、学校関係者など子どもと関わる方に伝えたいことはありますか? さやけんさん:いじめといっても色々あり、本作のように子ども同士の些細な関係のもつれが原因になることばかりではないため、一概に「こうしたほうが良い」などとは言えません。報復することではなく、我が子の幸せだけを願ったナツミとアキオの決断が必ず正解だ。とも言えないかもしれません。 けれども、子どもたちに幸せになってほしい。と願うことが一番大切ではないかなと感じます。そうすれば自ずと、放置したり、無関心になったりせず、時に誤った決断をしてしまっても最終的に正解へと辿り着けるはずだと信じています。 傷ついている子どもたちに寄り添い、笑顔を取り戻すためにはどうしたらいいか。それを一番に考えられる存在でいてほしいと思います。 また、大人が無意識に「いじめの種」を子どもたちに植え付けることがないように、子どもたちの前で他人の悪口を言ったり、有名人を貶したり、悪気のない悪意を見せつけることがないようにしてほしいなと思います。 ―――このお話はSNSやブログにて書き始めたそうですが、書籍化のお話があったときはどのようなお気持ちでしたか?また、ご家族や周囲の方々の反応はいかがだったでしょうか? さやけんさん:信じられない…ドッキリかな?と感じました(笑) 家族はとても喜んでくれて、書籍化決定の話をいただいた日は自分のことのように喜んでくれました。同時に、この後の執筆作業で毎日大変になるだろうから。と、夫も子どもたち、友人たちもすごく助けてくれました。もう、本当に感謝してます。 ―――SNSやブログにて本作品を読まれた読者の方々から、「ナツミさんとハルコちゃんへの共感の声」や「不安の声」などたくさんの感想が届いているとのことですが、印象に残っているコメントがあれば教えて下さい。また、読者の声を聞いた心境を教えてください。 さやけんさん:「読んでよかったと思える作品だった」と言ってもらえたことが、本当に嬉しかったです。お話が進んでいく中、「読んでいて辛いから早く終わってほしい」というご意見もたくさん届いていて、そういったコメントをくださった方からも「あんなコメントを書いてしまったが、最後まで読めてよかった。嬉しい気持ちになった」と言ってもらえて、とても感動しました。 ―――本作品をどのような方に読んでいただきたいですか? さやけんさん:子どもたちと関わる全ての方に、できるだけ多くの方に届けられたらいいなと思います ―――最後に、読者へのメッセージをお願いします。 さやけんさん:辛い描写が続く中、最後まで読んでくださった皆様、興味を持ち手に取ってくださった皆様、本当にありがとうございます! これ以上のお話はもう描けないのではないかな。と感じるほど、心を込めて描いた作品でした。 スピンオフなども描く予定ですので、ぜひ興味がありましたらそちらも読んでいただけると嬉しいです! *** いじめ問題の解決には、加害児童やその保護者、学校関係者などさまざまな人と向き合う必要があります。普段から親同士の関わりを持つことや子どもとのコミュニケーションを深めることが、子どもの異変に気づくきっかけになるかもしれません。 取材・文=畠山麻美