「出演した若手俳優が次々にブレイク」安田真奈監督から見た未来のスターの共通点とは? 安田真奈ロングインタビュー【後編】
コロナをきっかけに繋がった片岡礼子との短編映画『あした、授業参観いくから。』
―――2021年には、ちょっと面白い試み、7つの台詞を5つの家庭で繰り返す実験的短編映画『あした、授業参観いくから。』が評価を得て、各地で公開されています。この映画の経緯を教えてください。 「私は主演の片岡礼子さんの大ファンで、以前からSNSをフォローしていました。コロナ禍がほんの少し落ち着いた時期、片岡さんが当時のtwitterに『映画館が再開して嬉しい』と投稿されたんです。私がそれに反応したところ、なんと『昨日TUNAガールを観ました。胸が熱くなりました』という返信をいただいたんです」 ―――そんなことが! やっぱり出会い運がすごいですね。 「奇遇ですよね!『是非いつかご一緒させてください』とお願いして、1年後、本作の主演を片岡さんにオファーしました。コロナ禍は何かと大変でしたが、片岡さんとつながれた、と思うと救われます」 ―――授業参観にまつわる全く同じ会話を、5人の生徒の家庭で繰り返す、というアイデアは、いつごろから温めてこられたのでしょう。 「『あした、授業参観いくから』『えっ』『何よ』『別に』…などの7つの台詞は、演技や脚本のワークショップでずっと使ってました。授業参観は、誰もが何らかの思い出を持つ行事。親が行くと言った瞬間、喜ぶ子、ちょっと困る子、と、親子関係が露わになります。 親子関係が違えば脚本も演技も変わるし、撮影も編集も音も変わります。全く同じ会話で全く異なる親子模様が描けるな、観た後に親子について語り合いたくなる短編になるな、と考えて撮りました。3日間限定上映でスタートしたところ、ありがたいことにリピーターが多く、各地に単独上映が広がりました」
「『小さな幸せのスイッチ』を見つけるきっかけになる映画を作りたい」
―――児童虐待に悩む母親を描いたドラマ『やさしい花』(NHK、2011)も10年以上前の作品ですが、現在も上映とともに講演やワークショップが行われるなど、長く支持されていますね。 「脚本のみの担当なんですが、石野真子さんと谷村美月さんの熱演が素晴らしいです。2010年の大阪2児置き去り死事件で、児童虐待防止には親のケアも必要、とわかってきました。そこで翌年、NHK 大阪放送局が本作を製作しました。 無料イベントなら上映貸出料不要なので(福祉ビデオライブラリーにて貸出)、各地上映が続いています。『もし自分が当事者だったら』と振り返って意見をシェアするワークが好評です」 ―――安田監督の映画は、自分の生活にそのまま置き換えられるようなリアリティがあります。その源泉は、どこからきているのでしょう。 「高校時代、同居していた祖母が鬱を患い、毎日暗い話を聞かされました。大好きなおばあちゃんが辛い妄想にとらわれていて、悲しかったです。また、話し相手を担い続けた影響で、私は約10年間パニック障害や神経性胃炎に悩みました。それらの経験から、『人は裏に事情を抱えている』『人生が悪くないと気づくことは、難しく、また尊い』と感じるようになりました。誰とどう関われば前を向けるのだろう、とよく考えます。 たとえば、『やさしい花』では、自身も虐待の過去を持つマンションの隣人が、虐待してしまう若いお母さんに寄り添います。『幸福(しあわせ)のスイッチ』では、東京で仕事がうまくいかず、不幸のドン底と思っていた次女が、故郷に帰って父親と接するうちに、人生や働く意義を見つめ直します。 負のスパイラルの中にいたのが、誰かと交わることで、人生がちょっと明るくなる。そうして一歩を踏み出したら、今度は他の誰かの役に立てるかもしれない。そんなプラスの連鎖を生む『小さな幸せのスイッチ』が見つかるような、心に陽の風が吹く映画を作りたいです」 ---------------- 次なる作品は、神戸を舞台にアラフィフの恋物語を撮影したいとのこと。明治時代のラブレターが出てきて物語が動き出すらしいが、タイトルは未定だ。 他にも、ネジ工場を舞台にした男三代の子育て物語『虹色のネジ』、母と、母に逆らえない娘の愛憎を描く『胎内の魚』を構想中とのこと。 日常の小さな変化から幸せを見つけていく安田真奈監督。「新作映画のリサーチが楽しくて」と瞳を輝かせていた。公開が楽しみだ。 【安田真奈監督プロフィール】 奈良県出身。メーカー勤務の後、上野樹里主演『幸福(しあわせ)のスイッチ』(2006)監督・脚本で劇場デビュー。本作にて第16回日本映画批評家大賞特別女性監督賞、第2回おおさかシネマフェスティバル脚本賞を受賞。堀田真由主演『36.8℃サンジュウロクドハチブ』(2018)、小芝風花主演『TUNA ガール』(2019)、片岡千之助主演『メンドウな人々』(2023)、片岡礼子主演短編『あした、授業参観いくから。』(2021)など監督・脚本担当。 【著者プロフィール:田中稲】 ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。
田中稲