蔦哲一朗監督「8年の歳月」新作映画「黒の牛」東京国際映画祭上映で祖父文也さん彷彿させる笑み
蔦哲一朗監督(40)の新作映画「黒の牛」が3日、都内で開催中の東京国際映画祭で、アジアの未来部門出品作として上映された。同監督は「動き出して、8年の歳月がかかっています。国際共同製作で、台湾の方のお力も借りています」と、台湾との合作になる新作長編映画が、東京国際映画祭で世界初上映されたことに感無量の思いを吐露。笑みを浮かべた顔は、徳島・池田高野球部を、監督として春夏3度の甲子園優勝に導いた祖父・文也さんを彷彿とさせるように丸みを帯び、8年の月日の年輪をかいま見せた。 【写真】祖父である池田・蔦文也監督 「黒の牛」は、蔦監督にとって、13年に東京国際映画祭「アジアの未来」部門でスペシャル・メンションを授与された「祖谷物語 おくのひと」以来11年ぶりの長編映画となる。禅に伝わる悟りまでの道程を十枚の牛の絵で表した「十牛図」から着想を得て、日本初となる70ミリフィルムを一部使用し、撮影した。 舞台あいさつには、主演の台湾の俳優・李康生(リー・カンション=56)も登壇した。「今日、こうして東京に来て、お会いでき、うれしい。日本映画に出ること、主役として出させていただいた、とても特別な映画です。私も完成した映画をスクリーンで見ていないので、楽しみ。皆さんと一緒に見せていただきます」とあいさつした。 ケイタケイは「映画に出たのは今回が初めて。監督はじめ、すばらしいスタッフに囲まれ、素敵な体験ができました」とコメント。須森隆文(36)は「自分は、パイロット版にも出演させていただき、早8年。無事に完成し、こんなに大きなスクリーンで見ていただけること、感無量です」と語った。 映画は、蔦監督の故郷・徳島県三好市がある同県西部から香川県にあった、農家に農耕用の牛を貸し出す慣習「借耕牛(かりこうし)」を題材にしており、劇中には、牛の「ふくよ」も出演する。蔦監督は「この映画は、人間だけを見ていたら良いという映画ではなく、ふくよ…牛が出てくる。ふくよの演技というか生き様と、背景の自然も一主役だと思って作っていますので、五感を研ぎ澄ませて見て欲しい」と観客に呼びかけた。【村上幸将】 ◆「黒の牛」 今は昔、急速に変わりゆく時代のなかで、自然とのつながりを見失った狩猟民の男は自分の分身とも言える牛と出会う。男は農民となって牛とともに大地を耕しながら、木、水、風、霧、土、火、万物とのつらなりをただ静かに視つめ、刻み、還る。禅僧を田中泯が演じ、生前、参加を表明していた坂本龍一さんの楽曲が使用されている。また、東京国際映画祭の市山尚三プログラミング・ディレクターがプロデューサーの一角に名を連ねる。