三木谷オーナーが「魔術師」と絶賛もスタンドは空席目立つ。ACL初陣神戸の爆勝を演出したイニエスタは何を思ったか?
目の前で繰り広げられたゴールラッシュを、心の底から堪能できたからか。白星発進を見届けたヴィッセル神戸のオーナー、楽天株式会社の三木谷浩史代表取締役会長兼社長は上機嫌だった。 「初めてのACLだったので最初はちょっと緊張していましたけど、途中から調子がでてきたのはよかった。慢心せずに、次の試合も頑張ってほしいですね」 マレーシア王者ジョホール・ダルル・タクジムをホームの御崎公園球技場に迎えた、12日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループリーグ初戦。ヴィッセルが初めて経験するアジアを舞台にした戦いは、前半に2ゴール、後半には3ゴールをあげる快勝で幕を閉じた。 歓喜に沸くヴィッセルの中心には、FCバルセロナとスペイン代表で一時代を築いたレジェンド、アンドレス・イニエスタがいた。2つのアシストを含めて、意外性に富んだ正確無比なパスで3つのゴールをお膳立てした稀代の司令塔へ、三木谷オーナーは最大級の賛辞を贈っている。 「まあ、彼は魔術師なので」 FW小川慶治朗が決めた前半13分の先制弾は、まさに魔術に魅せられたような展開から生まれていた。ヴィッセルが最終ラインでパスを回しているときに、トップ下で先発していたイニエスタがするするとポジションを下げ、ハーフウェイラインを越えて自陣の左サイドに入ってきた。 すかさずベルギー代表のセンターバック、トーマス・フェルマーレンがボールを預ける。身体を反転させ、体勢を整えるイニエスタの一挙手一投足に、相手の視線が集中した刹那だった。3トップの右に配置されていた小川が、左斜め前方のスペースへ向けてスプリントを開始した。
「イニエスタがボールをもつことで相手の2、3人を引きつけるし、最終ラインもボールウォッチャーになる選手が多くなる。そうした状況でたとえば足の速い選手が上手く飛び出せば、決定的なチャンスを作ることができると思っていたので」 こう振り返る小川は、無尽蔵のスタミナを身長170cm体重67kgの身体に搭載。2015年3月の川崎フロンターレ戦ではJ1歴代で5位タイの数字となる、90分間で47回のスプリントを記録したこともある。韋駄天ぶりを縦ではなく斜めへ発揮した理由を、生え抜きの27歳はこう説明する。 「斜めへ入ってくる動きに相手は一番つきづらいし、そこでパスが合えば得点チャンスが増える。イニエスタはどんなパスでも出せるし、常に裏は狙っていました。信じて走ったところへ本当に最高のボールが来て、ワンタッチで入れることができました」 あうんの呼吸で小川とのホットラインを開通させたイニエスタが、40メートルを超える縦パスを供給する。ツーバウンドした先の落下点へ走り込んできた小川に、相手選手は誰も対応できない。左足のワンタッチで放たれたループ弾は相手キーパーの頭上を越えて、ゴールへ吸い込まれていった。 「やっぱりすごいボールが出てくる、とあらためて感じました。ああいう選手がいて自分が生かされているんだな、と」 イニエスタの卓越した個人技と広い視野にあらためて脱帽し、感謝した小川は後半13分に左足で、同27分には頭でゴールをゲット。初めて挑んだ大舞台でハットトリックを達成している。