南の島の味がするニホンミツバチの蜂蜜「こしきハニー」で、人口4000人の離島を元気に
地元の人が気づいていない「資源」を生かす
「こしきハニー」は、柿やマンゴーを思わせる風味があり、いかにも日本の南の島の産物だと思わせる個性がある。自生の草木に加え、島で栽培されているビワやスモモの花蜜が蜂蜜の風味に寄与しているのかもしれない。ワインの世界では近年、土地固有の特徴を表す「ティピシティ」という言葉がよく使われるが、この蜂蜜には確たるティピシティがあると感じた。 現在、小林さんは週の半分は訪問看護と介護施設の仕事、薩摩川内市の健診のアルバイトをし、残りの半分は養蜂や食堂&カフェの仕事を行っている。二刀流ならぬ多刀流といったところか。事業には看護師として島にやってきた人など3人の移住者もボランティアスタッフとして参加している。 この話題の興味深いところは、老齢化・過疎化の進む離島を土地固有の資源(人、ノウハウ、自然、土地固有の個性)を使って活性化するヒントが隠されていることではないだろうか。最小限の人員で最大限のパワーを創出するために、職業の壁を取っ払って協力する。埋もれている才能や技能を掘り出して生かす。生産・加工・販売を一貫して行うことで原料調達から収益までの流れを作る……。 スタート時、10個だった養蜂箱は26箱まで増えた。蜂の数でいうと、現在5万~20万匹。23年秋の蜂蜜の生産量は約80kgだったという。製品は「かわんぐい」、港のショップ等で販売しているほか、ネット通販も行っているが、販路はまだ十分とはいえない。地域の活性化のシンボルになりそうな蜂蜜の販売が軌道に乗ったら、次なる展開として小林さんは、来島者が気軽に滞在することができる場所を整えたいと考えている。そうして人を環流させることができたらいいと。 店の暖簾に染め抜かれた「かわんぐい」のマークには、蜂の巣を表す六角形の中に三角屋根の建物と川を表す3本の曲線が描かれている。3本は地元の人、移住者、ツーリストを表しているのだそうだ。小林さんの描く理想像が端的に表現されていると思う。
【Profile】
浮田 泰幸 ライター/ワインジャーナリスト/絵描き。広く海外・国内を取材し、各種メディアに寄稿。主な取材テーマは、ワイン、蒸留酒、コーヒー、食文化、旅行、人物。著書に『憧れのボルドーへ』(朝日新聞AERA Mook)など。ワインと産地の魅力を多角的に紹介するイベント「wine & trip」を主催。また、絵描きとしても活動。ワインのラベル画など、飲料・食品関連のデザイン制作に携わる。www.yasuyukiukita.art