『帝国妖人伝』著者、伊吹亜門さんインタビュー。「人物ストック、まだたくさんあります!」
「人物ストック、まだたくさんあります!」
日本が大日本帝国と称した時代、主に明治から第二次世界大戦にかけ、那珂川(なかがわ)二坊という作家が遭遇した殺人事件の顛末を記した短編集がこちら。明治、大正、昭和も戦前戦後までというと、ずいぶんと長い時代に感じるが……。 「でも、年数で見ると実はそうでもないんです。日露戦争から第二次世界大戦終戦までは、40年ちょっと。歴史で習っているとこの間がすごく長く感じるのに、と自分でも書いていて驚きでしたね」 いろいろな出来事があったからそのぶん濃密に感じるのかもしれない、と伊吹亜門さんは語る。そんな伊吹さんは、もともと歴史の本やウィキペディアを読むのが好きで、そこに書かれている人物のちょっと意外な経歴を見ると、メモを取るようにしているという。 【写真ギャラリーを見る】
「この人はこの時代、こんな場所にいたんだというストックがたくさんあって。その中で、歴史の教科書に出てくるほど有名ではないけれど、知っている人は知っているという知名度で、今回の登場人物たちをチョイスしました」
章ごとの謎解きの楽しみと、一冊を通して知る主人公の姿。
そんなひと癖もふた癖もある人物たちが、主人公である那珂川の周りに綺羅星のごとく現れるのがこの物語の楽しい仕掛け。それも世に知られる以前の姿でさりげなく現れるものだから、それが一体誰なのか? が、また大いなる謎のひとつとなっている。不可思議な殺人事件の謎と、そこに現れ出る謎解き役の正体と。読み手が何重にも楽しめる趣向なのだ。 そして、主人公である那珂川は第1話の青年らしい姿から徐々に時を経て、最終話では死を強く意識する年代に。どの時代にも何かを内に抱えながら生きる姿を一冊通して追うことで、初めて見えてくる那珂川の姿も読後また感慨深い。特に第4話では戦中の作家たちそれぞれの戦争との関わり方も描かれており、考えさせられる。 「4話は大東亜戦争中なので、言葉使いにもけっこう気を配ったんです。当時のNHKアーカイブの大本営発表などで使われているのを見て、仇敵撃滅といった言葉はそのまま使おうと。その一環でいろいろな人の日記や評伝を読んで、当時日本が勝った時どう感じていたか、空襲が多くなるにつれどう記述が変わっていくのかなど、戦争との向き合い方を調べるようにしました。那珂川は最初、作家として名をあげるため戦意高揚の文章を書いたりしていたのが、気持ちが入り込み、日本に勝ってほしいと願うようになっていった。けれど、それらを経て最後に残ったのが、純粋に『物語を書きたい』という気持ちだったんです」 それが描きたかった、と伊吹さん。物語を通し見えてくる那珂川二坊という作家の生涯と、時々に遭遇する事件、個性あふれる人々。那珂川のいる場所も章ごとに、東京、京都と奈良の間、ポツダム、上海、と変わっていく。 時空を超えて謎に満ちた旅に出よう、本を手にそんな気持ちになれる。