面白いってなんですか? ーウソを語るファンタジー漫談師 街裏ぴんくー
ー作品の出来栄えは? 最初は自分の音声を組み込んでもいいかなと迷っていましたが、世界観を伝えて制作会社の方が作ってくださったジオラマが素晴らしすぎて最高でした。元々興味があった「ネタを立体化させる」ということを今後もっとやっていきたいと思いましたね。 ー立体化というのは? 駅前で幟を立てて演説したり。基本的に普段は劇場で待っていることしかできないので、1人でも多くの人に劇場に来てもらうためにいろんなところに出ていきたくて。でも、今やっても「頭おかしい」と思われそうなので、それが面白いなに代わるためにももっと売れないといけませんね。
面白いって何ですか?
ー独自のジャンルを確立しているぴんくさんですが、独自性やオリジナリティってそもそもどんなものだと思いますか? 笑いって生理現象じゃないですか。排泄と一緒っていうか。嘘つけるもんじゃないから、「こういうのおもろいって言ってた方がニッチ」とかそういうもんじゃない。「自分はこういうのが好きだ、面白いと思う」って自然に言えちゃうものだし、言えなきゃならないもの、なのかなと。人それぞれに必ずあるものというか。 ーウケるものを作るために、どんなものがウケそうか考えたり、思考を大衆化させることはありますか? ないですね。誰かに好きだ、面白いと思ってもらうためには、いろんな人のツボに俺が自分で引っ掛かりにいかないといけないと思っていますが、それってもうギャンブルなんですよね。なので「俺が考えている面白いことは、 みんなが面白いと思えることの中にきっとあるはずや」っていう、この面白いは俺だけのものではないはずやと信じて活動しています。 ー尖りすぎてるかなとブレーキをかけたくなることは? いや、むしろ尖り続けたいですね。だって山ほど所謂一般的にウケるような、日常に溢れている笑いってあるじゃないですか。誰もの身近にある、例えば「転ぶ」とか。そういった単純な笑いに近いものの方が、多くの人に笑ってもらえるってわかっているんですが、沢山あるしわざわざする必要はないなと。だから自分が唯一無二の笑いができているか、誰かと似たことをやってないかは常に自問自答しています。 ー誰もやっていないことしかやる意味はない? 芸人をはじめたての頃は、周りと同じようなネタをやっている芸人に対して嫌悪感がありました(笑)。人それぞれ自由なんで、それはそれでいいんですけどね。でも誰もやってないことで芸を培って、誰も到達できへんところに来ているって自分では過信してやってきているわけですから。唯一無二だと信じられなくなったら、誰でもできる笑いになってんなと思ったらすぐ辞めます。あとは俺より上手に俺と全く同じことできる人が出てきたら、30年この芸をやり続けていたとしてもすっぱり辞めそうです。 ー普段どんなものを見て面白いと思いますか? 他のジャンルで、めっちゃ喋りが上手い人を面白いなと思います。最近通い始めた皮膚科の先生が、たけしさんみたいなんですよ。喋りを聞くために通ってるくらいなんですけど、嘘みたいに妙な雰囲気の皮膚科で、最近あげた「びょういん」という漫談はこの皮膚科を想像しながら話しています。喋りって、噛まないとかそういう上手さじゃなくて本当に熱量だと思うんですよね。その皮膚科の先生は、患者に100%で向き合ってくれる。距離感とかではなく、思い遣ってくれる気持ちからくる喋りのうまさって心に入ってくるんです。喋りが上手いっていうのは話術じゃなくて、どれくらい自分に向かって気持ちを込めて喋ってくれているかどうかだと考えています。コンビニ店員さんとの一言のやり取りでもいいなあと思うことがありますよ。大先輩の居島一平さんや清水宏さんは、お客さんに嘘なく思っていることを吐き出すんですよね、それが気持ちいい。「俺はこれを言いたい、聞いてくれ、受け取ってくれ」って気持ちがいかに大事かということを学びました。普段の漫談もそういう気持ちでやっています。 ー自分のやりたいことと周囲からの期待がズレることはないですか? R-1グランプリに出場しているんですが、そういった芸風を知らないファンの人以外も見るし、持ち時間が決まっている賞レースの時は、いかに素早くお客さんに設定や芸風をわかってもらって世界観に没入してもらうか、という問題があって、色々な先輩方から小道具や演出のアドバイスをもらいます。いつもすごいなって思うんですけど、どうしても自分は何も説明せずフラッと出ていって喋りだけで俺の「体験」を聞いてほしいんですよね。でも臨場感を高めるためだったり、自分が納得いく形なら取り入れてみようかなぁとも思っています。 ー「面白い」ってなんだと思いますか? 人って「記憶」で笑うと思うんです。本当に全く見たことがないものではなくて、記憶の中にあるものが知らない状態になっていたり、想像と全く違う見たことがないものになっている瞬間に笑いが起きるというか。「逆説の笑い」と呼べばいいのか、見たことある「記憶」じゃ得られない「見たことがない記憶」が面白いんだなと。「あるある」ネタもそうだと思いますし。ファンタジー漫談にも事実の部分を入れていますが、いかに自然に違和感のある世界に入っていけるかが大事です。