菊地吉正の【ロレックス通信 No.258】|「こんなのあったんだ」日本ロレックスの代替機。幻のサービスウオッチとは?
今回はおそらくはほとんどの方がご存じないであろう、筆者が刊行するアンティーク時計の専門誌「LowBEAT(ロービート)」の編集部が時計愛好家に借りて23号(2023年4月)に掲載したとても珍しいモデルを紹介したいと思う。 【画像】裏ブタの刻印など他の写真をチェック! この時計だが文字盤をよく見ると12時位置に小さく“TRU-BEAT(トゥルービート)”の文字がわかるだろうか。TRU-BEATはエクスプローラーやサブマリーナーが発表された翌年の1954年から61年まで製造された。つまりわずか7年間とロレックスのなかではかなり短命に終わったモデルなのである。 最大の特徴は秒針がジャンピングセコンド仕様という点。これに搭載されたCal.1040は、クォーツのように秒針が1秒ごとに運針する、いわゆるステップ運針するように当時のエクスプローラーなどに使われた自動巻きCal.1030をベースに改良された機械だ。セイコーの世界初のクォーツ時計が登場する約16年も前に作られたことになる。 これだけでも珍しいのだが、さらにこの個体の場合は文字盤中央には“SERVICE WATCH”というなんだか見慣れない文字が確認できる。実はこれ、修理品として時計を預かった際に、ユーザーの手元に時計が無いと不便だということから、日本ロレックスが独自に用意していた代替機だったようなのである。 ただ、TRU-BEATといえば本来はステップ運針のはずが、この個体の場合は一般的な自動巻きのように秒針が滑らかに動くスイープ運針となっている。おそらくは当時不人気で在庫として残っていたTRU-BEATのムーヴメントだけを通常タイプのCal.1030に置き換えて代替機に転用したということなのだろう。このようなサービスが日本だけだったのかは正直わからないが、いずれにせよなかなかお目にかかることのできない、まさに幻のモデルなのだ。 ちなみに裏ブタには“PROPERTY OF ROLEX WATCH DIVISION TOKYO”(ロレックスの保有財産の意)と刻印されている(写真は写真リンクページに掲載)。 文◎菊地吉正(編集部)
菊地 吉正|パワーウオッチ、ロービートなど時計専門誌の発行人兼総編集長。時計ブランド「アウトライン」も展開。ロレックス通信連載