井上弟の拓真が苦しんでつかんだ1年ぶり復帰勝利に何が見えたか
2階級王者、井上尚弥の実弟で、元東洋太平洋Sフライ級王者の井上拓真(21、大橋)が30日、後楽園ホールで日本Sフライ級2位で世界戦経験が4度ある久高寛之(32、仲里)と53.5kg契約の10回戦で対戦、約1年ぶりの再起戦を3-0の判定勝利で飾った。 昨年末に当時WBO世界バンタム級王者だったマーロン・タパレス(フィリピン)への挑戦が決まっていたが、スパーリング中に右拳を脱臼して中止となり手術を受けた。その後、左手1本で練習する時期を経て、この日約1年ぶりの復帰リングに立ったが、老獪な久高のペースに巻き込まれブランクもあって苦戦の復帰戦となった。 大橋会長は、来年にもバンタム級での世界挑戦の青写真を描く。現段階の実力でも、相手次第では十分に判定勝利を得ることはできるだろうが、誰とやっても勝てるようなインパクトと対応力は、まだ物足りない。試合後、井上拓も「練習でやったことが出せていない。これで世界なんて言ってられない」と、納得のいかない表情だった。井上拓は、デビュー以来9連勝(2KO)。 最終ラウンド。流血した久高はグローブで自らのアゴを叩き、ノーガードで「打って来い!」と、井上拓を挑発した。「意地ですよ、意地。でも、冷静だったんです。倒さないと判定では勝てないことがわかっていましたから。それに井上拓真選手のパンチに重さもなかったので、もらっても大丈夫だという自信もありました」。場内がどっと沸いた。 井上拓も気持ちなら負けていない。最後までKOにこだわり倒しにいった。 「ムカっとしたわけでもないんですが、じゃあ、やってやると」 壮絶な殴り合いになるが、どちらもクリーンヒットがないままゴング。 井上拓の1年ぶり復帰戦のKO決着を想定していた後楽園ホールのファンは、久高の大健闘で、白熱した試合を見せられ、しばらく拍手が止まなかった。シャイな日本人は立ち上がることはしなかったが、本場、アメリカならば、スタンディングオベーションだろう。そんな名勝負になった。