早田ひなが満身創痍で手にした「世界最高の銅メダル」。大舞台で見せた一点突破の戦術選択
痛み止めの注射を打っての出場。「早田らしさ」は…
そして翌日、直前に痛み止めの注射を打って挑んだという、シン・ユビンとの3位決定戦。 第1ゲーム。昨日より、バックハンド全般が冴え渡る早田ひなの姿がそこにあった。本来の動きとは違うかもしれない。それでも「早田らしさ」は垣間見られる。 3-3へ追いつく場面では、バックハンドを連打して取り切った。バックの精度が戻っている。4-3へ突き放す場面では、サーブからフォアドライブをミドルへ叩き込んだ。決定打ながら“コースを散らす”素晴らしいボールが放たれる。 しかし、シン・ユビンも必死だ。本調子ではない早田のバックハンドを突き、そこから左右に振り回しながらの戦い方でこのゲームを制した。 第2ゲーム。ここで早田は、思い切った作戦に出る。フォアハンド主体への切り替えだ。結果的に、この選択が決め手となった。 バックハンドも調子は戻っているように見えるが、それでも痛みが出にくいほうの打ち方、フォアハンドを選択したのだろう。また、ユルく、柔らかく返球するブロックも多用していく。腕に負担が少ない技術だ。 これらは、代表選考も兼ねた数々の世界大会の際に見せていた技術でもある。この3年間でやってきたことの何もかもが、この大舞台で、早田の力になっている。 2-4へ追いつく場面でも、あえてユルいブロック。中盤は、オールフォアに近い戦い方も見せた。9-7に突き放す場面では、イチかバチか思うほど大きく回り込んでカウンタードライブをシュート気味に決めた。サイドを割って、シンをノータッチで抜いた。シンは、平野戦の最後の最後で、バックからフォアへの切り返しで何本か動作が「遅れた」場面があった。その場面を彷彿させるコース取りだ。 デュースに入ると、11-11からレシーブで回り込んでフォアドライブ一発抜きも披露。フォア、フォア、フォア。徹底したフォアでこのゲームを取った。
徹底的にフォアが主体。早田の限られた選択肢
第3ゲーム。10-7と追い込まれながらも、回り込みフォアドライブ。10-8でサービスエースが決まると、10-9では投げ上げサーブから、フォアドライブを1ゲーム目で効いていたミドルへ叩き込む形で10-10とする。 10―10からもオールフォアに近いほど左右に動き回ってのフォアドライブを、コースを散らしながら打ち込む。この戦法が、最も腕の痛みを最小限にとどめる手立てだと、早田が実感しているように見える。11-10からは、投げ上げサーブから、ストレートにフォアドライブ。 また、フォアドライブだ。怒涛の5連続ポイント。このゲームを勝ち切る。手応えを感じた表情が見えた。それにしても笑顔だ。腕の痛みを抱えながらの戦いの中でも、早田は笑顔だった。 第4ゲーム。早田の勢いが止まらない。またしても“ほぼオールフォアスタイル”で、連続ポイント。そのフォアドライブの一発一発に、魂が込められている。早田の絶叫が、得点のたびに会場中に響き渡る。ここも11-7で取り切る。 第5ゲーム。ここで序盤からシンが、再び左右に振ってくる。フォアハンドを警戒し始めて、早田のフォアをしっかりと止め切ってから、早田のバックへ回してくる。 9-9。簡単には勝たせてくれない中で、早田が選択したのは、投げ上げサーブ。誰もが3球目攻撃でのフォアドライブ一発抜きを狙いにいくと思った、その瞬間、シン・は突然、巧みな技を見せた。 バックハンドで回り込んでの、シュート気味のチキータを、早田のミドルへ入れてきた。この試合で、これまでに見せていない技術だ。ここはシン・ユビンが挽回を重ねて勝利した。 第6ゲーム。今の早田が選択するのは、徹底的にフォアが主体だ。そのスタイル。今、選択をするしかないこの戦術のことは、シンもすでに把握していることだろう。 それでも、ここまできたら、あとは執念のようにも見えた。3年間ぶんの思いを、1本ずつフォアドライブに乗せて打ち込む。 3年前、早田は今とは違う状況で、オリンピックという場所にいた。