早田ひなが満身創痍で手にした「世界最高の銅メダル」。大舞台で見せた一点突破の戦術選択
パリ五輪、卓球。早田ひなが女子シングルスで悲願のメダリストとなった。混合ダブルスではまさかの1回戦敗退、大会中に負った左腕のケガ……。早田にとって苦難のオリンピックとなった中での堂々の銅メダル。メダルの色は日本のエースとして挑んだ本人が望んでいたものとは違うものだったかもしれない。それでも手にした銅メダルには大きな意味と価値がある。腕をしならせるように使う技術だと痛みが出てしまう――。そのように見て取れる状況の中で行われた3位決定戦、早田が選択した一点突破の戦術とは。 (文=本島修司、写真=ロイター/アフロ)
前日の準決勝、入らなかった得意のチキータ
8月3日に行われたパリ五輪、卓球・女子シングルス。銅メダルを懸けて早田ひなが挑んだ3位決定戦の相手は、韓国の申裕斌(シン・ユビン)。準々決勝で死闘の末に平野美宇に勝利した今大会の“キーマン”ともいえる存在だ。 前日の準決勝と同様に、左腕にテーピングを施して登場した早田。そのケガの影響は、前日からプレー全体に感じさせていた。 前日の準決勝。中国の孫穎莎との大一番。いつものように、チキータからの展開をつくれない早田の姿があった。レシーブに回った際に早田が最も得意とするのは、チキータからの展開だ。相手がサーブから攻め込んでくるところを、逆にチキータで先手を取り、そこから4球目で攻撃してしまう。そのまま早田が先手を取っていく形が理想だ。 ただ、この日はネットミスが多い。ボールがネット以上に持ち上がらない様子が見受けられた。しなるように腕を振り切れないためだろう。チキータは、肘をやや前に出し、バナナのように弧を描く技術だ。腕を回しきって、振り切り、ボールの“引っ掛かり”をつくる。その“引っ掛かり”が腕の痛みによりいつもより弱いのか、ボールが持ち上がらなかった。 バックミートやバックドライブも精彩を欠き、ケガの影響は明らかにバックハンドの技術全般に影響が出ていた。そのまま、4-0で試合が終わった。あまりにもつらい完敗だった。