こんな福本莉子を待っていた! 『全領域異常解決室』で発揮する“瞬発力”と“持久力”
『全領域異常解決室』に期待する俳優・福本莉子の覚醒の瞬間
しかしこの問いが生まれるだけでなく、そこにスリルまでが生じなければ、本作は緩急や起伏の浅い、かなり平板な作品になっていたことだろう。「全決」や刑事たちの奮闘ぶりを描くだけでは物足りない。それでは設定が特殊なだけで、あまりに平凡なドラマになってしまう。事件解決のその先にある“何か”の存在を仄めかさなくては、視聴者の興味・関心は続かないはず。そうなのだ、“福本莉子=豊玉妃花”こそがこの“何か”を体現し、決して平凡なドラマではないのだと、たったひとりで仄めかし続けてきたのだ。 彼女の言動は“仄めかし”にとどまっていたからこそ、これまでの福本のパフォーマンスはどれも瞬発力が重視されるものだった。ごくかぎられた出番の中で、豊玉が特別な存在なのだと示さなければならなかったからだ。豊玉のミステリアスな言動と福本の清らかな声と表情は、彼女らに対する視聴者のアンビバレントな感情をくすぐったに違いない。しかし物語の本筋に絡んでくるのならば、福本には持久力が求められることになる。雅や小夢を相手に、つまりは藤原や広瀬を相手に、福本はひとりで立ち回りを演じなければならないわけだ。瞬発力ではなく、本作が連続ドラマとして終わるまでの持久力がどうしても必要になってくる。 これまでの出演作の多くから、彼女に対して快活で清々しいイメージを抱いている方は多いことと思う。しかし、それだけではない。たとえば、2022年に上演された『お勢、断行』では江戸川乱歩の世界を原案とした舞台に立っていた。『全決』ではどんな一面を見せてくれるのだろうか。俳優・福本莉子の覚醒の瞬間に立ち会えることになるかもしれない。
折田侑駿