アップルやアマゾンでも「失敗する」共通の特徴 プロジェクト自体は最終目的ではなく達成する手段
続いて、提案者が資料を1行ずつ説明し、意見がある人は自由に発言する。「この細部に関する議論の段階が、会議の最も重要な部分だ」と、元アマゾン幹部のコリン・ブライアーとビル・カーは書いている。「厳しい質問が飛び交う。主要なアイデアと、それらを表現する方法をめぐって、丁々発止の議論がくり広げられる」 会議が終わると、提案者は出された意見を踏まえてPR/FAQを書き直し、それを再度経営陣に発表する。このときも同じプロセスがくり返される。次も。そのまた次も。何度も試行錯誤をくり返すうちに、提案はあらゆる面にわたって検証、強化されていく。また、これは関係者が最初から深く関与する参加型のプロセスなので、最終的に完成したコンセプトは、提案者からCEOまでの全員によって等しく明快に理解されている。最初から全員の足並みがそろうというわけだ。
とはいえ、どんなプロセスも完全無欠ではない。あるときジェフ・ベゾスは、「ジェスチャー操作に対応する3D機能搭載のスマートフォン」というアイデアを思いつき、これに惚れ込んだ。そしてみずからPR/FAQを共同執筆して、「アマゾン・ファイアフォン」のプロジェクトを立ち上げた。 ■「クールなアイデア」は無料でもいらない 当時アマゾンでデジタルメディア担当副社長を務めていたビル・カーは、2012年にファイアフォンのことを初めて知ったとき、「スマホにバッテリー消費量の多い3D対応画面をほしがる人なんているのだろうか」と疑問に思ったという。
それでも、1000人以上の社員を巻き込んで開発が進められた。ファイアフォンは2014年6月に約200ドルで発売されたが、売れ行きはかんばしくなかった。やがて半額に値引きされ、ついには無料になったが、それでも誰もほしがらなかった。 1年後、アマゾンはファイアフォンの販売を終了し、数億ドルの損失を計上した。「ファイアフォンの開発者が指摘していた通りの理由で失敗した。それがばかばかしくてね」とあるソフトウェア・エンジニアは言う。