アップルやアマゾンでも「失敗する」共通の特徴 プロジェクト自体は最終目的ではなく達成する手段
だが「逆から進める」方法も、右端のボックスに何が入るのかをしっかり考えておかないと失敗する。それをしなければ、どんなプロジェクトも計画立案の詳細と困難の嵐に翻弄され、もともと漠然としか理解していなかった目的さえもが視界から消えてしまう。するとプロジェクトは思わぬ方向に逸れ始める。 アマゾンのジェフ・ベゾスは、この危険を重々承知していた。そして、同社の経営理念の柱である「お客様へのこだわり」から逸れないために、巧妙な方法を考案した。
■「最後」を「最初」に持ってくる 一般に組織では、プロジェクトが首尾よく完了し、社外に発表する準備ができると、最終ステップとして、広報部が2種類の文書を作成する。1つは、新しい製品・サービスがどんなもので、なぜ顧客に役立つのかをまとめた、ごく短いプレスリリース(PR)。もう1つは、価格や機能、その他の問題をよりくわしく説明した、「よくある質問(FAQ)」である。ベゾスがアマゾンで考案した方法は、プロジェクトの「最後」に来ることが多いこのステップを、「最初」に持ってくることだ。
アマゾンで新しいプロジェクトを売り込もうとする人は、まず短いPRとFAQを書く。PRの最初の数行で、プロジェクトの目的を打ち出さなくてはならない。その後行われるすべての作業は、このPRとFAQを起点として、逆から進められる(ワーキング・バックワーズ)。そして重要なことに、どちらの文書もわかりやすい言葉で書かなくてはならない。 「僕は『オプラ語り』と呼んでいたよ」と元アマゾン幹部で、ベゾスのために何度もPR/FAQを書いた、イアン・マカリスターが教えてくれた。「ほら、オプラ・ウィンフリー(テレビ番組の司会者)は、ゲストが何かをしゃべると、観客のほうを向いて、誰にでもわかる簡単な言葉で言い直してくれるだろう?」
平易な言葉を使うと、専門用語やスローガン、技術用語によって、欠陥を覆い隠せなくなる。思考がむき出しになる。曖昧な考えや、生煮えの考え、非論理的な考え、根拠のない考えがあぶり出される。 ■最初から全員の足並みがそろう プロジェクトの売り込みは、経営陣との1時間の会議で行われる。アマゾンの会議ではパワーポイントのプレゼンテーションや、その他ビジネス界の一般的なツールが禁止されているから、PR/FAQを紙で配布し、最初に全員がそれをじっくり黙読する。それから最初の感想を出し合う。このとき、早いうちから他人の考えに影響を受けてしまわないように、立場が下の人から順に発表する。