夏の可愛い忘れ物、キューピッドの“矢”と“いるか”の星座を見つけよう
10月だというのに、気候には夏の名残が感じられます。 夜空を見上げてみても、西の空にはまだ夏の大三角が輝いています。今回はその近くに隠れている、可愛らしい星座たちをご紹介しましょう。
キューピッドの矢は何色に見える?
夏の大三角の中に、キューピッドの矢が隠れています。わし座の一等星アルタイルから10度ほど上(腕をまっすぐ伸ばして手をグーにしたこぶし1つ分)に、小さくて細長いYの字が横になった星の並びが見つかります。それが「や座」。星座の中で3番目に小さな星座ですが、ひと目見たら矢の姿だと実感できます。 この矢の持ち主は、愛と美の女神アフロディテ(ヴィーナス)の子どもエロス、英語名で言うとキューピッド。こちらの方が聞きなれた名前で、恋を成就させる天使のイメージがあります。でも、神話ではそうとは限らないようです。 エロスの矢は2種類あり、黄金の矢で射られると人も神様でさえも恋に落ち、鉛の矢で射られるとどんなに愛していた人でも一瞬でさめてしまうというものでした。そんな大切な矢を持っていたにも関わらず、エロスはその矢で色々な人たちにイタズラをしていました。想い合っていた人たちを別れさせたり、浮気をさせてしまったり……と、神をも困らせてばかりいたのです。そんなある時、エロスはうっかり自分の矢に当たってしまいました。たとえ自分の矢であっても効力に逆らうことは出来ず、エロスも心が張り裂けるような恋に苦しめられてしまったのです。さて、あなたの目にはや座がどんな矢に見えますか? や座にはエロスの話の他にも様々な神話があります。例えば、大神ゼウスが戦をする時に、鷲が絶え間なくゼウスのもとへ運んできた矢であるともされています。だから、わし座の近くにや座がさりげなく輝いているとも感じられますね。
水族館の人気者も星座に
わし座のアルタイルから東に目をうつすと、小さなひし形が見つかり、そこから下にしっぽを伸ばすと、飛びあがるイルカの姿が。水族館でショーを見ているような美しさの「いるか座」です。小さな星の並びから元気いっぱいな子どものイルカのように見えます。 しかし星座の絵を見ると、私たちが見慣れているイルカの絵とは違う姿が描かれていて、イルカとは見えないかもしれません。ギリシャではイルカが神聖な動物と考えられていたこともあり、威厳を持たせた姿を描いたのかもしれませんね。 いるか座は、神話の中では海の神ポセイドンの使いとされていますが、古代ギリシャに実在した音楽家アリオンの物語も残されています。琴の名手だったアリオンがシチリア島で行われた音楽コンクールに出場した時のこと。アリオンはコンクールで優勝し、たくさんの賞金を手にしました。その帰り道、乗り込んだ船で事件が起きたのです。 「おい、その賞金をよこしな」と悪者たちがアリオンに刃物を近づけて脅しました。アリオンは賞金をあげても助からないであろうと思い「どうか1曲だけ琴をひかせてくれませんか」と彼らに悲願しました。これが最後だと許しを得たアリオンは想いを込めて別れの曲を奏でました。すると、その美しい音色に惹かれたたくさんのイルカたちが船のまわりに集まってきたのです。演奏が終わるとアリオンは自ら海に身を投げました。ところが、アリオンは海に沈むことなく浮かんでいたのです。なんと、イルカがアリオンの体を受けとめて泳ぎはじめました。こうしてアリオンは無事に家に帰ることができたのです。その後、もちろん悪者たちは捕らえられました。そんなイルカたちの功績が称えられて星座になったとされています。 天の川の近くで、アリオンが奏でる琴の音色にのせたイルカショーを想像してみませんか。 さて次回は、夏の星空からバトンタッチ。秋のお誕生日の星座をご紹介しましょう。 (葛飾区郷土と天文の博物館・湯澤真実)