話題の3代目大家・石井さん、マンションに”庭”を作ったら街の人が集まりはじめた。みんなの「やってみたい」に応え地域に開いたスペースを次々と 神奈川県川崎市
この街、住んでいて意外と面白いかも?と思ってもらえるしかけと関係づくり
現在石井さんは、もとから所有する土地に加えて、新たに周辺エリアの土地を購入し、新たな取り組みを始めています。 2023年5月には「セシーズイシイ7」の隣に、住み開きができる店舗兼住宅を建築しました。このマンションの土地はこれまで地域の方が所有していましたが、周辺物件と合わせてより一体感あるまちづくりをしたいために、石井さんが土地を購入したそうです。
通りと建物の間に、あえてスペースを設け、気軽に近づけるようなつくりに。軒先には小さな縁側があり、通りがかりの人がふらりと腰かけることができ、入居者や店を訪ねてくる人、道ゆく人と自然な会話が生まれていました。
入居する飲食店のオーナー。石井さんとは毎日のように立ち話をしているそう。
「この街をもっと人のつながりにあふれる場所にしたいんですよね。せっかく商店街の中にある立地で顔を合わせている人たちがたくさんいる。実際に商店街の飲食店を飲み歩き回遊するイベント『ふらっと1000Bero in 武蔵新城』というイベントも開催しました。これからも彼らや、事業家の方と手を組んで、もっともっと活性化させていきたいですね。組合のようなしっかりした組織とかではなくていいんです。フラッときて顔を合わせられるそういうゆるい繋がりが大切だと思うし。そのためのしかけをつくっていきたいですね」
「セシーズイシイ7」の2階に増設したフォンブース(オフィス内等に設置するボックス型の個室スペースのこと)。
続けて、不動産業は単に場所貸しではないと力を込めて言い切る石井さん。 「今私たちが所有しているのは、23物件370世帯でほとんどが自主管理なんです。これほどの人とコミュニケーションがとれる関係って貴重ですよね。もちろん今は昔と違って、家賃を払うために管理人に会うということがなく、全て振込みで完結できてしまう。でも、思えばこの関係性ってもったいないですし、広げることができる可能性がありますよね。これほどの方と接点を持てるならば、皆さんに街の面白さを伝えるきっかけをつくれたら幸せだと思っているんです。これからのまちの不動産屋は、ただ住むだけではなく、暮らし方の提案をしていきたいし、私はこの街でそういう存在になりたいですね」 一人の行動がきっかけとなり、街の憩いの場がデザインされ始めましたが、これは石井さんがオーナーだからできることなんじゃない?と思われそうです。しかし、理由はそれだけではなさそう。この街を面白くしたい、街の人とちょっと交流してみたい、そういう思いがある人が少しでも集い、共感してくれるオーナーさんが手を差しのべてくれたら、どの街でも人のつながりは生み出せる気がします。 こと現代は、人のつながりをうとましく思う人もいるかもしれません。組合や商店会のように「必ず何かをしなくてはならない」関係性ではない、つながりが大切なのではないでしょうか。ほんのちょっとでも人と向き合い、言葉を交わし合う関係を少しずつでもいいから生み出していきたいですね。ただ住むだけより、街がほんのり面白くなるかもしれません。 ●取材協力 ・株式会社南荘石井事務所 ・新城テラス ・新城WORK ・SEES ISHII LABO
永見薫