東京五輪のレガシーどうなった? 施設の木材、ポストやベンチに変身
フランス・パリ五輪が26日、開幕した。前回の東京大会に続き「環境に配慮した持続可能な大会の実現」を目標に掲げる。東京大会では目標達成へ、全国から木材を集めて大会施設を建設し、大会後、木材は自治体に返却してレガシー(遺産)として活用する「日本の木材活用リレー」を行った。返却後の木材の今を調べた。 【地図からみる】木材のレガシー活用状況 「木のぬくもりが感じられるポストでしょ。大会は1年延期されたけど、高さは2020ミリにしました」 長野県根羽村の大久保憲一村長は笑顔で、ポストを紹介した。返却された木材を活用している。同村は総面積の92%を森林が占め、古くから林業が盛ん。「村長が森林組合長を務め、村の全世帯が山持ちで森林組合員」の全国でも珍しい村だ。 ポストは村役場の玄関横にある。村外からの来庁者の多くが目に留め、「根羽杉のPRにうってつけだ」(大久保村長)という。 村はブランド「根羽杉」18立方メートルを東京大会に提供。返却された木材はポストの他、ベンチやテーブル、テラスに加工して、村役場に設置した。村民の憩いの場となっている。 村は木材提供を機に、持続可能な林業に向けて動き出した。取り組みの一つが間伐材から作る「木糸(もくいと)」。大阪府と徳島県、熊本県が連携して開発した。2025年大阪・関西万博のスタッフユニホーム用素材に使用が決まっている。 大久保村長は「世界的なイベントに根羽杉を提供したことで、自信につながった。ここから林業を盛り上げたい」と力を込める。 林野庁によると「日本の木材活用リレー」には、全国63自治体が参加。杉やヒノキ、トドマツ、カラマツ、ヒバなど約4万本が集まった。この木材を使って選手村ビレッジプラザを建設し、閉幕後に解体して木材を返却。各自治体は、この木材のレガシー活用を進めている。
・取材後記
東京大会から3年がたった。開幕前も後も幾度となく耳にした同大会の「レガシー」の言葉は、負のイメージが強かった。東京五輪開幕前の21年6月、選手村ビレッジプラザを取材した際も、本当に返却された木材はレガシーになるのか疑問だった。 ビレッジプラザで使った木材は、22年2月末までに各自治体に全て返却された。その後を取材すると、各自治体は東京大会に貢献したことを、いろいろな活用方法でPRしていた。 大久保村長の「ポストやベンチの設置は、村民が村の木材の魅力を再確認するきっかけになった」との言葉が印象的だった。これが東京大会のレガシーの本来の姿だと感じた。今一度、東京大会のレガシーの役割に目を向けたい。(岩下響)
日本農業新聞