イ・ソンギュン遺作『スリープ』が公開。人気俳優が紡いだ人生の光と影、必見名作6選
ところが。ドンフンはこれまで自分を蔑み足蹴にしてきた大人たちと全く異なり、さらに彼が自分と同じように辛い事情を抱え、孤独で、だからこそ優しく、だからこそ貧乏くじばっかり引いている人だということを知るように。そして彼が彼女のことを気遣い「あの子はいい子なんだ」と言っている盗聴の録音を、何度も何度もくり返し聞いている自分に気づきます。やがてジアンは、自分を守ってくれるドンフンを、社長の陰謀から守るようになっていくんですね。
ドラマは盗聴で声だけが聞こえるという場面がすごく多く、だからこそ韓国芸能界の「イケボNo.1」ともいわれるソンギュンがこの役に選ばれたのだとか。コメディでは時々張り上げる高い声のギャップが笑いを誘いますが、この作品ではずーっと感情抑えめの低いささやきボイスで、これがドラマの持つさみしく繊細な詩情と相まって心に沁みます。 孤独を抱えた二人が、だからこそ同じ孤独を抱えた相手を思い、決して傷ついてほしくないと願うーーそういう思いが、ありがちな男女の恋愛感情に回収されないところもこのドラマのすばらしさ。韓国では人生を変えるような傑作を「人生ドラマ」と呼ぶんですが、この作品を個人的な「人生ドラマ」に挙げる人は私を含めてめちゃくちゃ多いと思います。まだ見ていない人はいますぐ見てください!! ※『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』Netflixほか配信中
悪役をやっても悪になりきれない“ユルい”ワル
『最後まで行く』『キングメーカー 大統領を作った男』 『パラサイト 半地下の家族』では、自分以外の全人類を蔑む金持ち男を、これ以上なく嫌味に演じたイ・ソンギュン。こういう悪役は実はイ・ソンギュンには珍しい気がしたのは、ソンギュンがワルを演じるときは「いろんな意味で“ユルい”ワル」という役が多いからなんですね。 その代表的な作品が、これまたイ・ソンギュンを世界に知らしめた名作『クッカジカンダ』こと『最後まで行く』です。