1年前の悔しさ、「平さんを笑顔で...」がエネルギーに。浦和ユースがタフな戦いをPK戦の末に制し、プレミア昇格!
[12.8 プレミアリーグプレーオフ決勝 浦和ユース 1-1(PK4-3)京都U-18 サンフレッチェビレッジ広島第一球技場] 1年前に涙したピッチでプレミアリーグ昇格。恩師とともに戦った「ラストゲーム」を最高の形で終えた。高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024 プレーオフ(広島)は8日、ブロック決勝4試合を行い、Bブロック決勝(サンフレッチェビレッジ広島第一球技場)は浦和レッズユース(関東3)が京都サンガF.C.U-18(関西2)に1-1(PK4-3)で勝利。2021年以来となるプレミアリーグ復帰を果たした。 【写真】乃木坂46五百城茉央が優勝もたらす“勝利の女神”に(全20枚) プリンスリーグ関東1部3位の浦和はプレーオフ初戦で清水ユース(東海1)に2-0で快勝。決勝の先発はGK小森春輝(3年)、DF薄井翼(2年、U-17日本代表)、田中一信(2年)、阿部慎太朗主将(3年)、田中義峯(1年、U-16日本代表候補)、MF和田直哉(2年、U-17日本代表)、会田光希(3年)、井上大輝(3年)、深田京吾(2年)、松坂芽生(3年)、トップチーム昇格内定のFW照内利和(3年)の11人だった。 一方の京都U-18はプリンスリーグ関西1部2位。プレーオフ初戦は仙台ユース(東北1)に5-1で快勝していた。決勝はGK本多敦(2年)、DF小林治英(3年)、三宮稜大(3年)、神田幸太郎(3年)、柴田了祐(3年)、ゲーム主将のMF尹星俊(2年)、昌山勇(2年)、酒井滉生(2年)、松本悠臣(2年)、FW西岡佑真(3年)、立川遼翔(3年、U-17日本代表)の11人が先発した。 前半、攻勢に試合を進めた浦和は、3分に会田が左足シュート。10分には田中義の縦パスを起点に井上がスルーパスを通す。これで照内がGKと1対1になったが、京都GK本多がビッグセーブ。それでも、浦和は16分、右CKからファーの和田が頭で折り返し、これを田中一がGKと競りながら頭で押し込んで先制した。 浦和はその後もDFラインが個の強さを発揮し、和田や松坂、会田がボールを回収して素早くサイドへ動かす。そして、深田の縦突破や薄井、和田、照内、井上のクロスなどでゴール前へ。24分には田中一の左クロスを井上が頭で枠へ飛ばした。一方の京都は神田、三宮の両CBからグラウンダーでボールを繋ぎ、尹の展開などで押し返そうとする。なかなか攻め切れずにいたものの、26分にショートカウンターから西岡が右足シュート。32分にも、西岡が連続でシュートを放って空気感を変える。 34分、浦和にビッグチャンス。相手ゴール前での奪い返しから会田が右足を振り抜くが、ポストを叩いた。その後は相手のハイプレスに押し返されたものの、集中した守りを継続。39分には京都のエースFW立川の突破を田中義が食い止め、こぼれを狙った酒井のシュートはDFとGK小森が懸命にかき出した。 京都は後半、相手FW照内のヘッドを許すシーンがあったものの、ともに効果的なパスを通す尹と昌山を軸にボールを保持しながら主導権を握った。14分には立川のスルーパスで西岡が抜け出すシーンも。後半、抜群のキープ力など違いを見せていた立川がアタッキングサードで相手DFを剥がしていたほか、右サイドでは柴田が高い位置を取り続け、抜け目なく動く尹や松本とともに崩し切ろうとする。 また、左の小林の攻め上がりも交えて分厚い攻撃。ただし、簡単にはクロスを上げずに攻め直し、シュートを打てそうな局面でもパスやドリブルを選択したことでやや怖さを欠いていた。浦和もCB阿部が背後のスペースを良くケアしていたほか、田中義の奮闘も光るなど水際で阻止。20分に井上とMF山根且稔(2年)を、27分に田中一、和田と左SB横山海斗(3年)、MF白井桜介(2年)を交代した後も、各選手が足を止めずに1点を守り続ける。 浦和の平川忠亮))監督は「ハイプレスも外されて運ばれるシーンが多い中で、最後のところ、ゴール前で両CB中心によくみんな戻って守備したと思います。色んな戦術があるけど、やっぱ最後戻れるかだし、身体張れるかだしっていうところで、気持ちみたいなもの見せてくれたんじゃないかなと思ってます」と頷く。 だが、攻め続けた京都が浦和ゴールをこじ開ける。33分、相手を押し込むと中央の昌山がDFを引き付けて右前方へスルーパス。相手の脅威ととなっていた西岡がトラップから右足シュートを決め、1-1に追いついた。京都はこの後も酒井がワンツーでPAへ切れ込むなどチャンス。だが、相手の戻りの速さの前に決め切ることができない。浦和も松坂の左足ミドルなどで攻め返して後半を終えた。 延長戦では京都も体力的に厳しくなる中、浦和が盛り返して白井の飛び出しなどで勝ち越し点を目指す。延長前半6分には深田と会田をMF{{熊谷陽人(3年)とMF相賀天晴(3年)へ交代。交代選手も含めて後半、延長戦とタフな戦いで走り抜いた。 以前は苦しくなるとバラバラになっていたというチームの変化。平川監督は「(苦しい時間帯が)必ずあるっていうのはみんなで話してたし、『そこを乗り越えれるか試される試合だよ』って話をしてたんで、本当に折れかけてたけどね、彼ら。ただ、ベンチでスタッフも選手も含めてみんな親もそうだし、応援してくれて、みんなが声かけたことで何とか乗り越えられたかなと思っています」と選手たちの踏ん張りを称賛していた。 京都は延長後半5分、右CKから神田がクロスバー直撃のヘッド。6分に小林と尹を左音空(1年)とMF石本泰雅主将(3年)へ交代した。その石本がダイビングヘッドでのクリアを見せるなど、チームを活性化。だが、2点目を奪うことはできず、試合はPK戦決着となった。 浦和はPK戦で「『3年生で蹴ろう』ってなっていて、やっぱり『悔い残らないように』っていうのは言ってたんで」(阿部)1人目から5人目まで全て3年生を配置。先攻の浦和は1人目の照内、2人目の松坂がゴールを破る。3人目の相賀のシュートが左ポストを叩いたものの、同じ3年生のGK小森が直後に相手3人目のシュートをビッグセーブ。すると、4人目の熊谷、5人目の横山も決める。最後は京都5人目のシュートが枠を外れ、浦和がプレミア昇格を果たした。 浦和は2023年のプレミアリーグプレーオフ決勝で帝京長岡高に1-2で惜敗。この日、京都U-18戦が行われたのは、1年前に帝京長岡が喜ぶ姿を目の当たりにした試合と同じ会場だった。 主将のCB阿部は「帝京長岡が喜んでる姿っていうのは、自分たちは泣いて見ることしかできなくて、その時の悔しさっていうのはほんとに自分たちのエネルギーになりました。そのことがあって、やっぱり1年間、この日のために頑張れたし、ほんとに結果は1-1、PKで、押し込まれたりして、ほんと苦しい時間の方が多かったのかなって思うんですけど。技術の部分もそうですけど、それ以上にやっぱ気持ちの部分で『去年を超えたい』っていう気持ちの方が強くて、それを全員が持っていたので、今日は勝てたのかなと思います」と喜んだ。 11月24日には、平川監督の来季からの琉球トップチーム監督就任が発表された。浦和の“レジェンド”平川監督は、浦和ユースのコーチを経て監督就任1年目。選手たちはその人間性にも惹かれていたという。阿部は「琉球の監督になるってことを聞いて、ほんとにショックではあったんですけど。でも、今年のユースのテーマが『チャレンジアンドポジティブ』って言ってたので、平さんはいつも僕たちに『チャレンジしろ』っていうことをおっしゃってくれてるので、平さんがチャレンジするのも当たり前のことなのかなっていう思いであったので、悲しい気持ちはあったんですけど、平さんも応援したいなっていう気持ちもありました」。選手たちは今大会、“いつも通り”に1試合1試合を戦うことに集中しながら「みんな、平さんを笑顔で送り出したいと思っていたはず」「絶対に勝ちたい」(阿部)という強い思いも持って戦い、プレミア昇格。会場外で胴上げして恩師を送り出した。 平川監督は現役時代、2002年のナビスコカップ(現ルヴァンカップ)決勝で鹿島に0-1で敗戦。だが、その1年後に4-0で鹿島にリベンジし、浦和に悲願の初タイトルをもたらしている。「去年、僕もコーチとしてこのピッチで負けた悔しさがありましたし。で、選手たちの泣いた顔を見ていますから。去年の悔しさを彼らと一緒に味わって(1年後に目標を達成)できたっていうところで言えば、現役の時と同じスタートだなと思っています。(ナビスコカップの)そういった思い出もあったから、(1年前の敗戦から)今回倒せたら指導者としてもいいスタート切れるなと思ってたんで。なかなか理想の結果にならないのが普通なのに。もう感謝しかないですね」と選手たちに感謝していた。 指揮官は最後のロッカールームで思い入れのある選手たちにメッセージ。「『満足しないでくれ』っていう話をしました。この先、大学行く選手とか上がる選手がいて、1、2年生はプレミアへ行く。で、京都の選手たちがあんだけ大泣きして。去年、自分たちは大泣きした悔しさがあったからここまで成長できたけど、ここから先、このプレミアに行けたことで満足してたらおそらく京都の選手たちには越されるよ、っていう話をしました。これで終わりじゃないし、ここから逆に難しいよっていう。楽しかった、嬉しかったで終わった後にどれぐらい努力できるのか。悔しさを味わった奴らより本当に努力できるかって難しいと思うんですよ。その辺もね、本当にやってくれということは伝えました」。悔しさをバネに1年間努力してきたように、浦和ユースは勝ってまた努力。そして、3年生は次のステージで、1、2年生は来年のプレミアリーグで輝く。