マトリのS(スパイ)となった大物密売人の末路とは 実名インタビュー「命がけで協力したのに裏切られた」
府警は内偵捜査により、渡辺元受刑者の自宅、周辺人物、立ち回り先に加え、薬物を保管していたトランクルームを特定。そしてホテルでの取引から4日後の4月21日深夜、トランクルームに現れた渡辺元受刑者に令状を示して捜索し、保管されていた覚せい剤やコカインを発見して現行犯逮捕した。 7月から大阪地裁で始まった公判では、渡辺元受刑者は「保管していた薬物は、Sとしての捜査協力の過程で入手したものだ」と主張し、Sとして麻薬取締官に協力していたと暴露した。 しかし証人尋問に呼ばれたX取締官は、「当時、渡辺元受刑者が薬物に関わっているという情報は得ていなかった」「違法薬物の取引をするとは聞いていなかった」「(薬物所持が判明していたら)捜査対象にしていたはずだ」と突き放した。さらに、裁判長から「渡辺元受刑者は何のためにあなたたちに情報提供していたと思いますか?」と問われると「我々に協力したいという気持ちでやってくれてたと思ってます」と、渡辺元受刑者が自ら善意で捜査協力をしていたに過ぎないと訴えた。渡辺元受刑者は、信頼していた取締官の突き放すような言葉を聞き、強いショックを受けたという。
他方で弁護側は、逮捕までに約200通のメールと約11時間の通話、31回の面会があった事実を示し、「取引に関与していたことを知らないわけがない。違法なおとり捜査だった」と反論した。 17年4月に判決があり、大阪地裁は「X取締官の証言は、多数の面会や電話でのやりとりを合理的に説明しておらず、信用性は著しく低い。渡辺元受刑者が違法薬物の取引に及ぶことを十分分かっていた」と指摘。ただ、渡辺元受刑者も営利目的で取引に及んでいたとして、双方は「持ちつ持たれつ」の関係にあったと断じ、懲役8年6月の実刑を言い渡した。 ▽Sになるとは 渡辺元受刑者は名古屋刑務所で服役した。X取締官については、法廷で偽証したなどとして大阪地検に刑事告発したが、不起訴になった。 Sとして活動したことで、勾留中に「おまえ、やってくれたな」「許さねえぞ」という文言が書かれた手紙を受け取ることもあった。拘置所や刑務所側も、報復の可能性を考えて情報が漏れないように極力、気を使っていたという。