マトリのS(スパイ)となった大物密売人の末路とは 実名インタビュー「命がけで協力したのに裏切られた」
「すると『おまえ、Yを知ってるのか!』と食いつかれて。それで密売所を全部教えたんです」。取締官からはYの顔写真を示されたため、「この男です」と署名して押印。さらに、地図も渡されたので詳しい拠点場所を指し示して署名・押印した。これらの経緯は調書としてまとめられている。 X取締官は、渡辺元受刑者を車に乗せて密売拠点を案内させることもした。その密売人Yは後に、麻薬取締部によって逮捕された。 ▽蜜月 密売人逮捕に協力した渡辺元受刑者は、X取締官から「Sになってくれないか」と持ちかけられた。 「『じゃあ俺に何をくれるの?俺はただ働きなのか?』って話になったわけですよ。そうすると、『仕入れたもの(違法薬物)に関しては売っていいから』と言われた。それで、『お、面白い話だな。これはまんざらうそじゃないな』って思ったんですよ」 渡辺元受刑者によると、X取締官と交わした取り決めが、「2回目の取引までは泳がせる」ということだった。
「つまり、(渡辺元受刑者と、捜査対象となった密売人が違法薬物を売買する)3回目の現場で捕まえるんです。1回目、2回目は泳がせてね。『じゃあ、1回目と2回目はどうすんの?』って聞くと、『こっちに持ってこられても、事件として挙げなくちゃなんないから(買ったものは)売っていい』とね。こういう密約があったんですよ」と渡辺受刑者は言う。それは、捜査対象からSであると怪しまれないためにも必要な方法だと、力説されたのだという。 渡辺元受刑者によると、Sとして計10組の密売グループの捜査に関係。X取締官に対して「今から名古屋取引です」とメールで伝えるなど、逐次報告しながら、取引を通じて密売場所やアジト、倉庫などの情報を収集した。 また、捜査対象者に接触し、その間に張り込んでいる取締官が対象者の顔写真を撮影するということもあった。ある外国人密売人の顔写真撮影に協力した際は、X取締官からは「バッチリ撮れました。ありがとうございます」というメールを受け取っている。