『ポール・マッカートニー写真展 1963‐64 ~Eyes of the Storm~』大阪展のアンバサダー、安田顕インタビュー
2023年、ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーのリニューアルオープン記念として開催され世界を巡回している『ポール・マッカートニー写真展 1963-64~Eyes of the Storm~』が日本に上陸。今夏に東京・六本木で行われた本展が、10月12日(土)よりグランフロント大阪にて開催されている。 全ての写真はこちら 1962年にデビューし、瞬く間に世界を熱狂させ社会現象となったザ・ビートルズ。同展では、ポール・マッカトニー自身が撮影したものや、60年前からネガやコンタクトシートのままでプリント化されてこなかった貴重な写真を含む約250枚を展示する。 中学生の頃にザ・ビートルズの音楽に夢中になり、「日常の中の一部。自分の中の一部ですね」と述べるほど大ファンである大阪展のアンバサダー、俳優の安田顕が同展の魅力を熱量高く語った。 ――ビートルズに出会い、人生観が変わったなどありますか? 感謝したいのは、やっぱり音楽の素晴らしさだったり、豊かさを知れたこと。自分が日々生きている中で、皆さんもそうだと思いますが、音楽は切っても切り離せない。僕にとってはその音楽の素晴らしさを教えてくれたのがビートルズです。 日常にビートルズの音楽がある中で生きているので、日々の生活の中の一部、自分の中の一部です。それを敢えて何か人生観が変わったかと聞かれると言葉が出てこない、難しいなと思うぐらい、日常の中に普通にある音楽です。ご飯を食べて、お風呂に入って、そして寝ることと一緒ぐらいの感覚です。 ――同展が東京の六本木で始まってすぐにご覧になられたんですよね。 始まった当初はちょうど舞台中で行けなかったんですが、舞台が終わってすぐに行きました。もう時間を忘れました。皆さんにとってすっごく大好きなアイドルとか推しがいると思うんですけど、要するに僕にとってはそれがビートルズなんです。入ってロビーに行くと、その大きなパネルが並んでいるんです。 1964年のビートルズが初めてアメリカに上陸した時の様子をメンバーのポール・マッカートニーが見た写真と、ロビーにはその当時作られた頭像彫刻がある。それが僕にとって皆さんが夢中になっているアイドルとか偶像なんです。その空間にはずっといられる。 写真展自体は、ポール・マッカートニーが撮ったほとんどの写真に関しては来場者も撮影自由。僕も夢中で撮ったけど、SNSとかで"誰かが撮ったものを見る"ということと、"自分で足を運んでその写真展を見る"という感覚はまったく別物なんですよね。その時間を自分で選んで、非日常の中にいる感覚といいますか。 自分にとって大好きな人たちがすごく身近にいる気がしたんです。オフィシャルの衣装を着て、どこかで撮られていることを意識しながら喋っているんじゃなくて、ポールというビートルズのメンバーだからこそ気を許した表情をしているんですよね。そういう顔って今回の写真展までは僕は見たことがなかったので。必ずどこかで写真を撮られていると意識した中でいるジョン・レノンだったり、ジョージ・ハリスンだったり、リンゴ・スターは見たことがあるけれども、決してオフィシャルでは使われないだろう、趣味で撮られているものの中に写り込んでいる彼ら。 リバプールから出てきた20代前半のただのお兄ちゃんたちがいるというか、それはやっぱりずっと好きだったから、そういう表情が見られるだけで、なんか涙が出そうになってしまって。 だから、被写体として求められる以外にも表情って必ずあって、より素に近い彼らが見えるというのは、感慨深いものがありました。ジョン・レノンがポールのファインダーを見てニコッと笑っている1枚があるんです。そこでずっと立ち止まっちゃって、その前にどれだけいたかわからないですね。 そして今回タイトルが「Eyes of the Storm」という複数系なんです。「Eye」ではなく「Eyes」だと。ポール自身が、自分ひとりの目だけじゃない、メンバーやその近しいスタッフさんや周りの人たち、ビートルズと共に、あの時代のあの瞬間に、彼らと共にチームとして生きた人たちの目も含めて「Eyes of the Storm」。あの時、僕たちは確かに嵐の中にいた、その中にはいたけれども、これはポール・マッカートニーのファインダー越しだけじゃないよ、と。 すごくビートルズ好きにとってたまらないのは、メンバーの素の表情に加えて、それと共に時代を生きた人たちが写っている。例えばマネージャーのブライアン・エプスタインだったり、 プロデューサーのジョージ・マーティンであったり。あのとき「一緒にいたんだ!」とかね。映画『愛しのフリーダ』にもなったファンクラブの代表のフリーダの写真があったり。 あとは、マイアミで休暇を過ごしている時の伸び伸びとしたカラー写真とか、当時の恋人と一緒に写っているポールの姿があったりして、そこには本当に着飾らない20代前半の若者がいて。 ビートルズというのは、もう歴史的価値であることは皆さんわかっていらっしゃって、それが今回公開されることによって非常に貴重なのは、ビートルズという歴史的事象を含めて、1964年のアメリカの街並み、世相、それらが見られる。この時代、この街並み、こういった人たちに囲まれてビートルズは存在した。そういうことを感じ取ることができて、逆に動画じゃない動かない写真だからこそ感じられる生々しさがすごく溢れていた気がするんですよね。そういった体験も含めて楽しかったです。 ――ポールはメディアに出る側なのに、その渦中にいる人からの目線で撮られているのが面白いなと感じました。自分たちを追いかけてくるファンや、カメラマン、警備の人など、すごく貴重な視点だな、と。 そうですよね。メンバーにとっては思い出す光景ってあれなんでしょう。僕らファンとしては、ワシントンコロシアムであの時やったライブの模様であったり、エド・サリバン・ショーに出ているメンバーの映像はすごく記憶にあるけれども、メンバーがその時見ていたのはお客さんであって、カメラマンであって、僕らとはまったく違う逆の光景が彼らの脳裏だったり、思い出には生きてるから、ポールが80歳を越えて初めて、あの時代に自分たちが見ていた思い出を共有できたってことですもんね。それはすごく新鮮だし、うれしいですよね。 ――貴重な体験ですよね。 だから、歴史的事象であり事実の、その当時のアメリカを写しているということでも、すごく貴重だと思います。 そしてやっぱり不思議なものだけど、「本当にいたんだ」と感じました。「あ、この時代、この人たちは本当にいたんだ、その時代を生きていたんだ」という生々しさがあるんですよ、その写真一枚一枚に。それはさっき話したように、近しい間柄、気を許したメンバーたちの表情だったり、周りの人たちだったりを捉えている。そして彼の目線で追いかけてくるファンであったり、街並みだったり、取材陣を撮っている。その中に僕たちはいたんだ。この時代の中に僕たちビートルズという存在はアイコンとして存在したんだっていう大きなものを考えた時に、本当に生きてていたんだなっていう感覚というんですかね。それを感じ取ることができる写真展だなと思いました。 ――また。ビートルズに近しい間柄の俳優さんや女優さんも写っていたり、周りのスタッフさんや関わった芸術家の方もとても素敵に見えるんですよね。 そう、「この人が一緒にいたの!? まじか!」とか、そういうのがあるんですよ。そして、ビートルズの彼らと共にその時代を生きた人たちなんですよね。ビートルズをチームとして作って、たまたま表に出ているのが4人であって、彼らという社会現象を共に作り上げたのは、あそこに写ってる人たちなんです。伝説上はあったけど、顔が浮かばないような人の顔まで見ることができるのは、この写真展の醍醐味だと思います。 ――今回1番印象に残っている展示パートはありますか? やっぱりアメリカ上陸時のパートです。先程も挙げたジョン・レノンの笑顔の写真だったり、ジョージ・ハリスンが帽子をふたつ被せると面白い写真が撮れると言ったというコメントがあった写真。あとはジョン・レノンは右利きで、ポール・マッカートニーは左利きですけど、まるで鏡や対のようにふたりで作曲している写真とか。 アメリカ上陸の時のパートを見せるために、その前のパリがあって。たった1カ月も経たないうちに、あんなに人の表情が変わるんだっていう。それは言葉で言い表しにくいけど、ただのリバプールの兄ちゃんが世界のビートルズに、世界のアイドルになっていく、その貴重な瞬間が全部見られる気がします。 ――今回の展覧会ではオリジナルグッズも多く展開されていますが、おすすめやお気に入りのグッズはありましたか? あの写真集、1冊14300円なんです。僕には丸がひとつ少なく見えます(笑)。さすがマニア心をくすぐるなっていうところがあって、どれもやっぱり魅力的で、マグネットにしろTシャツにしろ、バッグにしろ。Tシャツもとにかく着たくなるし、何かこう魔法にかかりますね。 ――同展は世界巡回展ですが、日本上陸を待ち望んでいましたか? 正直に言えば、なければないで生きていけたと思います。でも、あることで私はすごく大好きだから豊かになったし、これをなんとか日本に持ってこようとしてくれた方に感謝したい。その方も写真展の中にこっそり写真を入れておいてほしいくらい。この機会を作ってくれたのは、ファンにとっては本当に感謝しかないです。今話したように新発見がいっぱいあったし、自分の中で、より身近に彼らを感じられたし。決してタイムマシーンもなければ同じ時代は過ごせないけれど、同じ時代を追体験できた感じはします。 写真を生成AIに取り込んで動きます、みたいなものも素敵だと思うけれど、ああやって動かない写真を黙って見つめながら想像を膨らませたり感じることができるっていうのは、なかなかできる経験ではない。それができるというのはうれしいですよね。 ――では、これから関西で同展をご覧になる方へメッセージをお願いします。 世界中にファンがいらっしゃって、日本中にファンがいるビートルズですから、自分の街にその写真展が来るというのはなかなかない機会だと思いますので、ぜひ大阪の皆さんは楽しみに観ていただきたいですし、東京で見逃したという方もいらっしゃると思いますので、ぜひ大阪に足を運んで体感していただきたいなと思います。 取材・文:能一ナオ <公演情報> 『ポール・マッカートニー写真展 1963‐64 ~Eyes of the Storm~』 開催日:2025年1月5日(日)まで 会場:グランフロント大阪 北館B1F ナレッジキャピタル イベントラボ