誰も見たことがない本殿・拝殿を。伝統技術でつくる、あたらしい〈鳥飼八幡宮〉
コロカルニュース
福岡市の都心部を走る明治通りに面し、近くには球場や大型商業施設があり、周囲に住宅とマンションが建ち並ぶ。〈鳥飼八幡宮〉は、そんなにぎやかなエリアにあります。 【写真で見る】職人さんたちの作業音だけが響き「まるで神事のよう」だったという、拝殿の中での茅を葺く作業風景。 鳥飼八幡宮の歴史は古く、『古事記』や『日本書記』にも登場する神功皇后のゆかりの地として、社殿を建てられたのが発祥と伝えられています。 まちがめまぐるしい変化をとげてゆくなか、神社は変わることなく、人々を出迎えてきました。 そんな鳥飼八幡宮が、「遷宮」(神社の改築や修理)によって大きく姿を変えたのは、一昨年のこと。 もっとも驚かされるのは、壁全体を茅(かや)で葺かれた拝殿の圧倒的な存在感。「神社」という建物のイメージを覆すその姿は、いったい、どのようにして生まれたのでしょうか。 ■神様のいる場所を、常にみずみずしく 鳥飼八幡宮ではもともと、25年おきに遷宮を行ってきました。 ただしこれまでは、歴史ある本殿・拝殿を改修したり増築したりする、小規模なものだったそうです。 しかし、今回の遷宮にあたり調査を行ったところ、建物の老朽化が著しく、建て替えなければならないことが判明。 老朽化とはいえ、古くからある建物を壊し、つくりかえることに抵抗はなかったのでしょうか。 鳥飼八幡宮で神職をつとめる高野さんに尋ねると、「常若(とこわか)」という言葉を教えてくださいました。 「常若」とは、神様をお祀りする場所を、常にみずみずしくきれいに保つ、という考え方。 たとえば伊勢神宮では、1300年も前から、20年ごとにまったく同じ建物をつくり替える「式年遷宮」を行なっています。それは、こういった考えに基づくものなのだそうです。 「わたしたちは、以前と同じ建物をつくるのではなく、『あたらしい神社』をつくろうと考えました」と高野さん。 「『あたらしい』というとすこし語弊があるかもしれません。神道の歴史は縄文時代からありますが、実ははっきりとした教義はないんです。ですから、これを機に、古くからつづいてきた信仰のかたちを、固定観念にとらわれずに一から考えてみよう、そして、それがきちんと伝わる建物をつくろう、と考えたのです」 ■誰も見たことがない本殿・拝殿を 「あたらしい神社」の設計を依頼されたのは、福岡市内に事務所を構える〈二宮設計〉の二宮隆史さん・二宮清佳さん夫妻でした。 二宮夫妻は、鳥飼八幡宮の山内宮司から、「誰も見たことがない本殿・拝殿を」というオーダーを受けたのだそう。 二宮隆史さんに、その頃のお話をうかがいました。「誰も見たことがないもの……とはいえ神社であるからには、地域の方々に納得してもらえるものにしなくては……」と、アイデアを模索していた二宮さん。 幾度となくスケッチを描き、山内宮司と何度もイメージをすりあわせ、検証を重ねて、巨石と茅葺で拝殿をつくる構想がまとまりました。 高野さんはいいます。「巨石信仰は、世界共通の信仰のかたちなんです。いつの時代の人が見ても、たとえば、ここがいつか埋まってしまったとしても、発掘された時に『神聖な場所だったんだ』ということがすぐわかる」 天然の素材と、伝統的な技術で、あたらしい神社をつくる。そうすればきっと、訪れた人に愛着を持ってもらえるはず。 こうして、あたらしい拝殿は、十本の巨石を柱とし、外壁全体を茅葺にすることが決まったのでした。 ■茅葺(かやぶき)は、サステナブルでエコな工法 日本では伝統的な家屋に用いられる「茅葺」が、環境に優しくデザイン性にも優れていると、海外、特にヨーロッパで評価されていることをご存知でしょうか。 茅葺はまず、ススキなどの植物を素材としており、古くなって葺き替えた後は土に還る。また自然素材でありながら、通気性や断熱性、保温性に優れている。茅葺は、サステナブルでエコな工法なのです。 しかし、日本では建築基準法により、1950年に茅が「燃えやすい素材」とされ、茅葺屋根の建物を新たに建てることが難しくなりました。 そのため、現在の茅葺職人の仕事は、現存する茅葺建築の葺き替えがほとんどなのだそうです。 茅葺職人の仕事は減り、職人だけでなく茅を採取する「茅場」も減少。茅葺の建物をつくることはますます難しくなり、技術の継承が危ぶまれています。