ふかわりょうが“サイテー男”の小説に込めた思い 「B面があるからA面がある」その言葉の真意は
もともと、「いいひと」という言葉に興味があったというふかわさん。 しかし、「10年前には時代の渦ができていなかったので、仮に『いいひと、辞めました』という同じタイトルで小説を書いたとしても、中身は違うものになっていた」という。 同じ『いいひと、辞めました』という題材で、10年前のふかわさんと、今のふかわさんではどのように描き方が変わっていたのだろうか? 「教科書に載るような偉人たちが功績を残している一方で、プライベートは破綻していたりする。
現在、そういう事象を、たびたび耳にします。今、そういった現象に直面したとき、社会はどのように判断するかという局面に来ている。そういうところは10年前だったら、多分織り込んでいなかったと思う」 たとえば、作品の中では、ドストエフスキーやベートーベン、石川啄木など、誰もが知る世界の文豪や作曲家、画家たちのサイテーな私生活のエビソードがずらりと並ぶ。 「過去の偉人たちは、ファンタジーになっちゃってるわけじゃないですか。
天才だったら何をしてもいいとは思っていないですが、A面を享受している私たちが、ひとたび、B面が気に入らなくなった時に、そのレコード自体を破棄してしまうのですか? と。今、そこを問われている気がするんです。 B面があるからこそ、A面がある。そのことに、もう少し冷静に向き合いたいなと思っている」 ■小説だからできた表現 近年は、エッセイを立て続けに発表していたふかわさんだが、今回は小説。 そのため、自分のことを書くわけではないという前提がありつつも、「小説だからこそ、エッセイでは書けないこと、つづれない本音の部分もある。
それはあくまでも僕側のモチーフであって、読者にはあくまでエンタメ作品として楽しんで欲しいです。 ただ、そういうモチーフがあることが、自分の中で執筆のモチベーションになる」 とはいえ、登場人物たちに具体的なモデルはいない。 「曲づくりと一緒で、自分の中に完全オリジナルがあったとしても、これまで無意識に吸収してきたものが、何らかの形で投影されていると思うので、小説もそれと同じだと思う」 前述の通り、ふかわさんのアウトプットする領域は、テレビ、ラジオ、音楽、エッセイなど幅広い。