炭鉱夫の息子は、バレエダンサーになれるのか?『リトル・ダンサー』進路に悩む若者と、子育てに悩んでいる親御さんと、両方に見て欲しい
1989年に漫画家デビュー、その後、膠原病と闘いながら、作家・歌手・画家としても活動しているさかもと未明さんは、子どもの頃から大の映画好き。古今東西のさまざまな作品について、愛をこめて語りつくします!(写真・イラスト◎筆者 舞台写真 撮影:田中亜紀) 【写真】名場面!炭鉱夫のお父さんが面接に… * * * * * * * ◆夢を叶えるのは実に困難 もしあなたに夢があっても、家庭環境に恵まれていなかったら、どうする? 日本ほど教育にお金のかかる国はない。夢を持っても、それを叶えるための道筋を知り、諦める人は多いだろう。逆に親の過剰な教育熱に押しつぶされ、恵まれた環境と資質を放り出した友人も多く見た。 私はたまたま「夢を仕事に」できたが、どれほどのものを失ったか。親とは決裂。友人や恋人と過ごす時間もなく、やっと夢が形になった時には難病を患った。幸いに今の主人と結婚して命と仕事を繋いだが、夢を叶えるのは実に困難だ。 それでも「夢」を捨てなかった少年「ビリー・エリオット」が、映画『リトル・ダンサー』の主人公。『ビリー・エリオット』と題したミュージカルも2005年にロンドンで初演、2008年ブロードウェイに進出して大ヒットを記録、翌年のトニー賞で10部門を獲得した。
◆人生の苦難と親子の絆を見事に描いている 多くの人の心を掴んだのは、この作品が人生の苦難と親子の絆を見事に描いているからだろう。この7月から東京・大阪でミュージカル『ビリー・エリオット リトル・ダンサー』の公演もある。なのでまずは映画で予習! さて主人公「ビリー」は、「男らしくなってほしい」と願う父親の夢を託され、ボクシングジムに通っている。しかし、このジムでクラシック・バレエのレッスンを見た途端、ビリーはバレエに魅了されてしまうのだ! ビリー演じる少年が拙く体を動かすのを見るだけで、私たちはわくわくしてしまう。舞踊とは何という喜びに満ちた行為なのか! 同時にこの作品は、「労働争議」「組合運動」という硬派の社会問題も掘り起こしている。舞台となるのは1980年代のイギリスの炭鉱の町。長く政権を握った労働党の政策によって財政難となったイギリスは変革を必要とし、保守党が政権を握る。 かの「鉄の女」、マーガレット・サッチャーが1979~1990年まで首相を務め、新自由主義経済政策と「小さな政府」(公共事情や福祉を切る)を進めた、労働組合の組合運動を抑圧した時期である。 即ち、この映画で「労働組合の敵対する権力の中枢」にいたのがサッチャーだ。