炭鉱夫の息子は、バレエダンサーになれるのか?『リトル・ダンサー』進路に悩む若者と、子育てに悩んでいる親御さんと、両方に見て欲しい
◆労働者の権利と生活を守らないと、だめじゃない? 高校生だった当時の私は、「サッチャー、かっこいい」くらいにしか思わなかったが、この『リトル・ダンサー』を見ると、「ビリーのパパが熱を入れる組合運動を応援したい」と思ってしまう! 若いころは社会主義運動だの組合運動だのと言う言葉だけで、「なんかこわーい」印象を受けた。でも、現代日本の政治の腐敗、広がる貧富と教育の格差を見るにつけ、「労働者の権利と生活を守らないと、だめじゃない?」と思ってしまうのだ。 まして自分は、「親のやる気と経済基盤がなく、望んだ教育は受けられない」という敗北感に悩まされた。なので、「ビリー・エリオット」を取り巻く人々の生活や苦悩に、ひどく共感してしまう! しかし父のジャッキー(演じたのはゲイリー・ルイス)は、ビリーがバレエを習い始めたと知って激怒。バレエを続けさせるよう説得に来たバレエ教師を追い出し、ビリーを殺すほど殴るのではという修羅場を経たのち、息子の踊る姿を見て、遂にロイヤル・バレエ団受験を応援すると決意する。 けれどその為には養育費を稼がねばならない。よってジャッキーは、組合運動から手をひく。其れはどれだけハートブレイクな選択だったろう。
◆最高の見どころ 「スト破り」と罵られながら、炭鉱に向かうバスに乗り、深い坑道に降りていくジャッキーの姿には胸が熱くなる。彼は愛する息子のため、「裏切りもの」の汚名を被るのだ。 「愛する」というのは何と厳しいことか。息子ビリーは勿論その重みを感じたろう。そして必死で「踊る」。ビリーの踊りは愛そのもの。彼の愛と与えられた愛への応えなのだ! そしてロイヤル・バレエ・スクールの面接に行くパパ・ジャッキーとビリー。他の子たちとの階級差にショックを受け、最低な態度で面接を受ける場面は最高の見どころ! パパ・ジャッキーの全くなっていないネクタイの締め方。背広が無いため皮のジャンパーを羽織り、安物の革靴を履きながらも、「息子さんの教育を全力で応援できますか?」ときくバレエ団の先生に向かい「はい、全力で応援します」と言い切るその瞳の純粋さ、切実さ、立派さ!見ていて目が熱くなる! 父親のみならず、町の沢山の人々にも応援されたビリー。「スト破り」とジャッキーを罵る町の男に、「いいじゃないか。息子がロイヤル・バレエ団に行くんだから」、と言い返す老女。そしてたくさんの人々が、なけなしの御金を寄付に持ってくる。こんな応援をされたら、ビリーは全身全霊で踊るしかない!