「令和」時代に森保ジャパンを悩ませるジレンマとは?
これまでもコパ・アメリカには2011年大会、2015年大会で招待されてきた。しかし、前者は東日本大震災の発生に伴って国内日程の都合がつかず、後者は改正されたばかりの前出の規定に触れるため、ベストメンバーを派遣できないという理由でともに辞退している。 ひるがえって今回は、森保一監督の強い希望を受けて招待を受諾。参戦が正式に発表された昨年末の段階で、JFAの関塚隆技術委員長は「しっかりとしたA代表で臨む」とコパ・アメリカへ向けたビジョンを描き、FIFAの規定に関してはこう言及していた。 「両方の大会に出てはいけない、という規定ではないので。そこはご理解いただければ」 もっとも、コパ・アメリカが近づいてくるにつれて、森保監督の発言もややトーンダウンしている。昨年末の「幅広い年代で代表を組むことは考えられる」から、最近では若手を積極的に起用する方針を示し、監督を兼任する東京五輪世代となるU-22代表についても「フル代表に呼べるような選手がいれば、選考の土台にあがる」と言及した。 これが所属するFC東京でポジションを確立させ、飛び級で招集されたU-22代表でも結果を出している17歳のMF久保建英を大抜擢するのでは、という報道につながった。しかし、ここではコパ・アメリカへ向けたチーム編成が後退している背景に、目を向ける必要があるだろう。 昨年末の段階で自信を見せていた関塚技術委員長だが、国内外のクラブとの交渉は予想通り難航し、青写真を練り直す状況に追い込まれたことがうかがえる。当然ながら海外クラブはシーズンオフにあたる6月を休養にあてさせ、新シーズンへ万全のコンディションで臨ませたいと望む。
一方で国内の日程を見れば、コパ・アメリカの開催に伴う中断期間は設けられていない。リーグ戦だけでなく、YBCルヴァンカップのプレーオフ、そしてACL決勝トーナメント1回戦と重複する。 たとえば1チームにつき一人と人数の上限を設けられたとしても、Jクラブ側としては主力をコパ・アメリカへ派遣することに難色を示すだろう。ゆえに若手の積極的な起用となったわけだが、ここでも「嬉しい悲鳴」とも言うべき活況が指揮官を悩ませる。 A代表が3月シリーズを戦った間に、U-22代表はミャンマーで開催されたU-23アジア選手権予選に出場。マカオ、東ティモール、ミャンマーの各代表に3連勝、得点21に対して失点0と圧倒的な力の差を見せつけて、来年1月にタイで開催される本大会の出場権を獲得した。 招集された23人のメンバーのなかで、Jクラブ所属選手は18人。そのうちDF立田悠悟(清水エスパルス)、DF原輝綺(サガン鳥栖)、MF三好康児(横浜F・マリノス)、MF杉岡大暉(湘南ベルマーレ)、FW前田大然(松本山雅FC)、そして久保ら11人がクラブで主軸を担っている。 前回のリオデジャネイロ五輪前を振り返れば、候補選手たちが所属クラブで出場機会を得られない状況が長く続いた。危機感を抱いたJFAはJリーグと連動してJリーグ・アンダー22選抜を編成し、2014シーズンから創設したJ3リーグに参戦させて実戦経験を積ませた。 一転して、一生に一度巡ってくるかどうかわからない、自国開催の五輪という存在がホープたちを発奮させているのだろう。ひとつ下のカテゴリーで、当然ながら東京五輪をも目指すU-20代表にも、昨シーズンの新人王を獲得したMF安部裕葵(鹿島アントラーズ)らが控えている。 つまり、東京五輪世代をコパ・アメリカに臨むA代表に大抜擢しようにも、当然ながらクラブ側との交渉は難航する。東京五輪へ向けた強化になる、と説得されても、目の前の公式戦で結果を出さなければいけない現実に目を向ければ簡単には首を縦には振れないはずだ。 ましてやU-20代表は5月下旬からポーランドで開催されるFIFA・U-20ワールドカップに臨み、久保も代表候補に名前を連ねている。大会を勝ち進めば間髪入れずにコパ・アメリカへ臨むだけに、成長途上の体にも必要以上の負荷がかかってくる。U-22代表も6月上旬にフランス遠征を行う。 A代表の主力だけでなく、伸び盛りの若手を招集しようにも大きな壁が立ちはだかる。招待参加とはいえ、レベルが著しく落ちるチームを編成するわけにもいかない。さまざまなジレンマを抱えながら、メンバー選出へ向けた時間は刻一刻と減っていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)