狭い道 路肩の車に感じる恐怖 「みんなが歩きやすい社会を」 館山の石井さん呼び掛け(千葉県)
館山市の石井健介さん(45)は36歳の時、突然視力を失った。今は重度の視覚障害と認定され、外出では白杖(はくじょう)が頼りの生活を送る。街を歩く時に最も困るのが、路肩の歩行者スペースをふさぐように止まっている車。車道側にはみ出て歩くことを余儀なくされ、行き交う他の車に怖い思いをするからだ。「道をふさがれれば、他の人や車だって迷惑する。視覚障害者だけの問題ではない」と、誰もが通りやすい道路の環境づくりを、みんなで考えようと呼びかける。 9月下旬のことだった。石井さんは、買い物でJR館山駅東口近くの県道の路肩を、白杖で前方を確認しながら歩いていた。 県道は片側1車線で、幅は5メートルほど。歩行者が歩くスペースは白線で区切られた両方の路肩側の幅50センチほど。その外側のコンクリートのふたをかぶせた排水溝のスペースを入れても1メートルほどしかない。 そこへ、後ろから来た車が路肩をふさぐように石井さんの前で止まった。気配で感づいた石井さんはその車の後ろの部分をたたいて「ここに止めないでください」と呼び掛けた。 すると、声の印象で30~40代と思われる男性が運転席の窓を開けて「お前、本当は見えているんだろ。警察呼ぶぞ」とけんか腰で応じてきた。 石井さんは、本当に見えず、車道側に出るのが怖かったのだと伝えたが、男性は納得しない。相手にせずに歩き出すと、石井さんの歩くペースに合わせて車を走らせながら「お前、見えているんだろ。逃げるなよ」と、なおも脅すような言葉を浴びせてきた。この男性にも恐怖を覚えた石井さんは「ならば、警察に行きましょう」と言い、方向を変えて駅前の交番前に足を運んだが、男性の車が来ることはなかった。 石井さんは今、この出来事を振り返り、「身勝手な人のために、なぜこちらが命の危険にさらされなければならないのか。さらに、迷惑駐車をした側が、身勝手を指摘されたことに怒りで反応してくる不条理。納得できない」と語る。 石井さんは「これは、目が見えない、見えにくい私だけの問題ではない」と指摘する。自転車に乗っている人も、路肩の迷惑駐車を避けて車道にはみ出ざるを得なくなる。ベビーカーなどに小さい子どもを乗せて通行する人も同様だ。さらに、発着のために駅前に入ってくる大型バスなども、路肩に車があれば通り道をふさがれ、乗客も迷惑する。 実は、石井さんが迷惑駐車によってこうした経験をするのは、今回だけではない。そのたびに、関係者や公共機関に対策を頼んだが、改善されないという。 3年ほど前には、今回と同じJR館山駅東口近くで、路肩に止まっていた、納品に来たと思われるトラックの横を通り過ぎようとして、サイドミラーに顔をぶつけた。トラックは車高と車幅があるため、白杖では乗用車などより存在やサイズを確認しにくい。 戻ってきた運転手に「ここは駐車禁止じゃないですか」と指摘したら、「駐車じゃねえよ。停車だよ」と言い返された。業務で一時的に短時間止めていただけ、と言いたかったらしい。だが、運転する人間が車から離れて止まっていたら、駐車であれ停車であれ、同じ迷惑行為だ。 石井さんが「僕は見えないので注意してください」と話したら、視覚障害者と気付いたのか「次から気を付けます」との返事があったが、口ぶりは不満そうだったという。 石井さんは2016年、朝目覚めたら、目が見えなくなっていた。自己免疫疾患で視神経がダメージを受ける病気が原因だった。その時は絶望的な気持ちになったが、家族や友人の支えを受けたことで、「人とのコミュニケーションによって、目が見えなくても逆に見えるものがある」と気付いた。 現在は見える世界と見えない世界をつなぐ仲介者という意味の「ブラインド・コミュニケーター」として、目が見えない人も社会で一緒に生きていることを理解してもらうワークショップや、企業研修のプログラム作りをする仕事に当たっている。 石井さんは訴える。「障害がある人もない人も、みんなが住みやすい社会にしたい。そのためにどうすればいいのか、私も含め、一人一人が考えることから始めませんか」 (斎藤大宙)