AI時代の「茶の湯」の魅力とは? 茶道を通して最先端テクノロジーを模索するソニーコンピュータサイエンス研究所の試み
効率化とスピード重視の時代、人やものとじっくり向き合う「茶の湯」の文化が若いリーダーや海外の人たちから再評価されはじめている。今回は、茶の湯を通して最先端のテクノロジーを模索する研究所を訪ねる 【写真】再評価される「茶の湯」の魅力
茶の湯を通して最先端のテクノロジーを模索する研究所
「研究をすることは、未来を切り開いていくこと」──自らの役割をそう謳うソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)。2020年4 月、コロナ禍と時を同じくして京都に新しい研究拠点をオープンした。リサーチディレクターはCSO(Chief Science Officer)の暦本(れきもと)純一。同拠点の目的は、文化と技術が高度に融合した「ゆたかさ」を探究することだという。 「人類の進化を大局で見たとき、加速主義だけだと閉塞感が生まれる。AIが人類の仕事を奪うというが、AIの進歩で人類がやることを失う一方で、人類が何をすべきかの提示を両輪で行う必要がある」
この研究拠点の面白い特徴が「個室はないが、茶室はある」こと。暦本の研究テーマ「Jack In」(デジタル空間に没入し能力を拡張すること)に掛けて「寂隠(じゃくいん)」と名付けられた茶室は、センサーなどの最新デジタル技術を取り入れながらも、伝統的な茶室建築の思想・技法で造られている。設計は茶室建築を専門とする遠山典男氏。数寄屋建築茶美会(さびえ)の一級建築士だ。 「茶美会」とは「茶道」や「茶会」という言葉がもつイメージを打破し、「茶の美に出会う」というコンセプトを掲げて伝統と現代との融合を果たそうとした運動であり、茶道裏千家十五代家元鵬雲斎の次男・伊住政和が提唱した。2022年2 月、政和の次男である伊住禮次朗が、その意志を引き継いで株式会社ミリエームに活動の母体となる茶美会文化研究所を興して再始動させ、ソニーCSLと共同で研究テーマ開発や実証を行なっている。 「茶の湯などの伝統文化を研究する場合、東京でやろうとすると表層だけをなぞったものになりがちだが、必要な"本物"が身近にあるのも、京都に研究所を開設した理由」だと暦本。