【#佐藤優のシン世界地図探索69】イスラエルはいま建国以来の危機
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! * * * ――佐藤さん、イスラエルへの弾丸往復の旅、おつかれさまでした。で、現在、ガザの惨劇が続いているのは、イスラエルのネタニヤフ首相が全ての原因って本当ですか? 佐藤 この問題を解決するのは、インテリジェンス(確定情報)的に見ると本来は非常に簡単なことなんです。 ――どうするんですか? 佐藤 ガザにいるユダヤ人の人質の全員解放をイスラエルが求めるならば、その人質たちはハマスの手の内にあるわけですから、ハマスの要求を飲まざるを得ません。 しかし、ハマスの最終的な目的はイスラエル国家を解体することです。当然、現時点でイスラエルがその要求を飲まないことは、ハマスも当然わかっています。 なので、ハマスの現実的な要求としては、イスラエルに捕らえられている自分たちの戦闘員の釈放です。これは、イスラエルから見ると、テロリストの釈放となりますよね? ――はい。 佐藤 だから、イスラエルはそのテロリストの釈放に応じるしかありません。数百人だろうと数千人だろうと、ハマスが求めるだけのテロリストを釈放するしかないんです。 そうすることによってのみ、イスラエルはユダヤ人の人質を取り戻せます。そして、取り戻した後に復讐すればいいんです。 ――そのインテリジェンス世界の標準的な見方は、ユダヤ人の基本的な考え方に合致していますよね。それは、世界のどこかにユダヤ人がいれば、どんな方法をとってでもまず助ける。そして、このイスラエルの地に連れて来る、というのが基本ではないですか? 佐藤 そうです。それからユダヤ人を虐殺した奴らは、野を越え、山を越え、草の根を掻き分けても探し出して、相応の責任を必ず取らせます。 だから、イスラエルの方針は決まっているんです。しかし、ネタニヤフにはそれが実行できません。なぜなら、ネタニヤフ自身が2019年から訴追されており、内閣の座から下りればすぐに捕まる状況だからです。ちなみにいまの容疑は、詐欺、収賄、それから背任です。 ――国のトップがやってはいけない3点セットが勢揃いです。 佐藤 しかも、奥さんと息子が絡んでいて、捕まると家族全員が塀の中ということになります。 ――いまは首相だから絶対に辞めない。 佐藤 さらに首相になってからは、国会が最高裁の決定を覆せる法律を作ろうとしています。司法を変えてまでして、首相の座を守ろうとしている状況です。