STAPは「夢の細胞」で終わるのか 若山教授「できる人が再現するしかない」
クローンマウスのときに「僕も疑われた」
また、若山教授が「絶対ないともいえない」というのは、実験の結果が、個々人の技能の高さなど論文には書かれない条件に依存してしまうこともありうると思っているからでもあるでしょう。 若山教授はハワイ大学に在籍していた1996年、世界で初めてクローンマウスを誕生させたことで知られています。2001年には、マウスのクローン胚からES細胞を樹立したことで注目されました。筆者はその時期、クローンやES細胞について取材していたのですが、同分野の研究者から「若山さんの論文に書かれていることを再現するのは難しい」と聞いたことがあります。「ハワイの水に含まれている溶岩の成分が関係しているんじゃないか」という冗談も聞きました。 実際、会見で若山教授は「僕がクローンマウスをつくったときも疑われたことがあり、あちこちに出向いて技術指導をすることで納得させ、疑惑を晴らしたこともありました」と説明しました。STAP細胞についても同じで、それがあることを証明するためには「(再現)できるといっている人が再現するしか方法がないと思います」といいます。
「ES」と書かれた容器発見との報道も
逆にいえば、できるといっている小保方氏がそのことを客観的に証明できなれば、STAP細胞は文字通り、彼女の「夢の細胞」でしかないことになります。 なお同日、小保方氏らが使っていた冷蔵庫から「ES」と書かれたラベルのある容器が見つかり、理研の研究者らが中に入っていた細胞を解析したところ、第15番染色体にGFP遺伝子が組み込まれていることがわかった、ということも報道されました。 若山教授が会見で、これまでの説明論文で書かれたこととは矛盾する解析結果を正直に公表したことはきわめて重要です。比較的早い段階から論文の撤回をほかの共著者たちに提案したことなどを含めて、その誠実さは評価されてもいいでしょう。しかし、その誠実さは、若山教授への"同情"の理由にはなっても、"免責"の理由にはなりません。データのチェックを怠ったのは明らかなのですから。彼も含めて、指導的立場にある共著者たちの責任は厳しく問われてしかるべきです。 (粥川準二/サイエンスライター)