世界遺産「ペトラ遺跡」を襲う洪水や干ばつ、古代の治水復活で救えるか、「天才的」と識者
古代の解決策を現代に
ダムを復活させる計画は、ナショナル ジオグラフィック協会が資金を提供する、世界中の文化遺産を気候変動に適応させる新たな取り組みでも推奨されている。「プリザービング・レガシーズ」とよばれるこのプロジェクトの目的は、文化遺産を気候変動から守る地域社会の活動を支援することだ。 「われわれは地域の気候モデルを作り、最優先で守るべきものは何かについて地域のリーダーと話し合います」と、プロジェクトを率いる地理学者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもあるビクトリア・ハーマン氏は言う。 これは極めて重要な取り組みだ。地球の気候が変化するにつれ、1963年にペトラを襲った大洪水のような100年に一度の出来事は、より頻繁に起こるようになる可能性が高い。この地域の降雨量は、2050年までに40%増えると推定されている。 ペトラが備えなければならないリスクはほかにもある。砂漠の生態系はすでに限界に達しており、今残っている小麦畑や果樹園は、気温が上昇し、熱波がより頻発するにつれて、干ばつによってさらなるストレスにさらされるだろう。 砂嵐もまた、規模、頻度、激しさを増すと予想されており、砂岩でできたペトラの墓や神殿のファサードが蝕まれる可能性がある。また、吹き付ける砂と昼夜の激しい気温差は、砂岩の建造物に亀裂を生じさせ、崩壊させてしまうだろう。 ペトラでの取り組みは、一種の試験的なプロジェクトとして、気候変動への対応で文化遺産をどの程度救えるかを示すものとなる。4月に発表された報告書で「プリザービング・レガシーズ」チームは、今後数十年におけるペトラのリスクを中程度と評価している。 「これは危険性がないという意味ではありません」と、同プロジェクトの科学ディレクターであるサルマ・サボール氏は述べている。「この評価は、地域社会と当局が創造的な適応法を模索し、これに対応できる人材を育ててきたことを考慮したものです」