知るほどに深く面白い! “大人の遊び”「香道」の世界とは?
田中 宗教や国に関わらず、世界中にそのような香りの文化や習慣がありますね。 蜂谷 その中で、香道では香水ではなく、沈水香木(じんすいこうぼく)という木材を使用します。沈香が採れるのは、ベトナム、ラオス、カンボジア、インドネシアなどの東南アジアのみです。その沈香が、今から1400年以上前の595年、推古天皇の時代に淡路島に香木が漂着したというのが、日本の香文化のスタートです。 石井 洋編集長(以下、石井) そんなことまでわかっているんですか。 蜂谷 はい、日本書紀に記録として残っております。当時、沈香はまだ宗教儀礼の中で使用され、そこから特権階級である天皇や貴族たちが段々と生活に取り入れていきました。昔は毎日お風呂に入るわけではないですし、上下水道も今のように管理されていない。当然、街中にはいろんな匂いが漂っていたでしょうね。 石井 西洋で香水が発達したのはそういうことからだと聞いたことがあります。 蜂谷 ヨーロッパでは香水を振りかける、我々は香を炷く。とはいえ香木は貴重品ですから、一般庶民にはなかなか手が出せないものでした。先程も申し上げましたが、平安時代には貴族たちの間で和歌とセットで広まっていきました。紫式部が源氏物語の中でも描いていますね。 田中 着物に炷きしめるようなこともしましたね。 蜂谷 和歌をしたためた恋文を贈る時に、自分が調合した香りをつけることもあったようです。和歌や書のセンス、香りの良し悪しが相手を振り向かせるテーマだったのです。 石井 オリジナルの香りを添えて愛を伝えるんですね。めっちゃくちゃカッコいいじゃないですか。 蜂谷 沈香だけでなく、同じく東南アジアで算出されるシナモンなどの香料も炷き合わせて自分専用のものを作っていくんです。そこに恋心も練り込んでいく。 当時、貴族の割合は人口1000万人に対してたったの数百人。多分、香りだけで「あ、先程あの人がここを通った」「この残り香はあの人のだ」と感じ取ることができたでしょうし、壁やドアで仕切られた西洋建築と違って、寝殿造りは簾(すだれ)などで風通しが良いですから、風が気になる人の香りを運んできてドキッとすることもあったでしょう。