「タトゥーを入れたいが恐い世界の住人と見られそう…」相談を受けた弁護士が示した“最高裁の興味深い判決”
近年は日本でもタトゥーを入れたアーティストやアスリートなどのメディア露出増に伴い、タトゥーに興味を持つ人が増えつつある。一方でタトゥーに対する社会の反応は様々。読者相談の中には「タトゥーを入れたいけど、恐い世界の住人と見られそう悩んでいます」という声も。弁護士の竹下正己氏が“興味深い裁判例”を紹介しつつ、この相談に回答する。 【写真】右肩にちらりと見えるタトゥー 「LE SSERAFIM」宮脇咲良の後ろ姿
【質問】 キアヌ・リーブスが出演作品で魅せたキリストのタトゥーに痺れ、自分も入れてみたいと思いました。でも、日本ではタトゥーを彫ると、恐い世界の住人と見られそうで悩んでいます。別に般若や昇り龍を彫るわけではなく、洋風のカッコいいデザインを入れたいのですが、それでも諦めたほうが無難でしょうか。 【回答】 タトゥーについては、最高裁の興味深い判決があります。 彫り師が針の付いた器具を使い、皮膚に色素を注入してタトゥーを入れる施術は、医師でなければ行なえない医療行為になるのではないか、つまり、『医師法』違反なのではないかが争われたのです。 裁判での争点は、医療行為とは何かの解釈でした。それこそ「医師が行なうのでなければ、保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」とすれば、タトゥーは医療行為に該当し、有罪になります。しかし、「医師がその職分として行なう医療などを、無資格者が行なうことによって、保健衛生上の危険が生じる行為」なら、当然に医師がタトゥーを職分にすることはないため、医療行為にはなりません。
結局、最高裁は後者の解釈に基づいて『医師法』違反を否定しました。その補足意見で草野裁判官は、タトゥーは反道徳的な自傷行為であるとする考えや暴力団などの反社会的勢力が存在誇示の手段にしているなどの否定的な点があることを認めつつも、続けて「美術的価値や一定の信条ないし情念を象徴する意義を認める者もおり、さらに昨今では、海外のスポーツ選手等の中にタトゥーを好む者がいることなどに触発されて新たにタトゥーの施術を求める者も少なくない。このような状況を踏まえて考えると、公共的空間においてタトゥーを露出することの可否については議論を深めるべき余地」があると説示しました。 タトゥーの露出に対する周囲の反応も、今後は社会でどのように評価されていくかにより、変わっていく可能性があります。 なお、この補足意見には、当該彫り師の彫るタトゥーは『医師法』違反にはなりませんが、他人の身体を傷つける行為ですから、施術の内容や方法等で、傷害罪が成立し得るとの警告も付されています。 【プロフィール】 竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。 ※週刊ポスト2024年11月1日号