今は高額売買……絶滅の危機、モンゴル人最高の友『モンゴル犬』を譲る儀式
しかし遊牧社会の崩壊で、モンゴル犬も激減している。特に天敵である狼がほぼ絶滅状態になり、番犬としての役割がなくなり、知らず知らずに絶滅寸前になっていた、というのが現実だ。 現在内モンゴルでは、モンゴル犬はフルンボイル地域のみに残り、日本とほぼ同じ面積を持つシリンゴル地方ではほぼ絶滅に近い。私が取材中、携帯で撮ったモンゴル犬の写真をSNSでアップすると「その犬の子犬が生まれるのだったら、一頭欲しい」と、多くの人たちから連絡があった。 モンゴルでは昔から、犬の売買は嫌われてきた。そのため、子犬が生まれると周辺の遊牧民がもらいにやって来る。その際、主人にハダッグ(長さ1m前後、幅20cmほどの絹、「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第5回」参照)を持って行き、子犬を譲ってくれることを頼み、さらに母犬にも牛乳を飲ませるらしい。だが残念ながら私が物心ついてから一度も、その儀式を見たことがない。 今回冬の取材中、乗合タクシーの運転手から、最近はこのフルンボイルのモンゴル犬が、シリンゴル地域で高額で売買されていると聞き、時代の変化に伴って遊牧民の美学も失われているようで悲しくなった。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮る―アラタンホヤガ第9回」の一部を抜粋しました。
---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。