英「10 マガジン」日本版の勝算 増田さをり編集長が渡辺三津子に語る
増田:伝統的な出版社の動きが新しい時代への対応に追われて最近、変化してきたという背景はあるかもしれません。そこで、小回りの利く媒体の強みが生かされるのではないかと。
渡辺:なるほど。それには、オリジナリティーとクオリティーを常に高く保つ必要がありますよね。
増田:ただの情報提供ではなく、誰かの視点が大切で、それが強ければ読者の意識にも残るし、同時にその時代を反映するものになると思います。実際、UKではテキストが面白くなければリライト依頼やボツになることもある。写真家も無難にきれいに撮るのではなく、「この人でなければ撮れない写真」ということに私もこだわりました。ビジョンがなければ何かを伝えることはできないと感じます。
渡辺:ちょっと心配になりましたが、私の日本デザイナーの特集の原稿は大丈夫だったでしょうか?
増田:急に何ですか(笑)。読んですぐ面白かったって伝えたじゃないですか。
渡辺:「10 マガジン」の基準がそんなに厳しいと今知ったから(笑)。一方で編集とは別の話ですが、幅広い部数を狙う雑誌ではないからこそ、そのビジネスモデルも気になります。
増田:「10 マガジン」の営業担当は、実は世界全体でロンドンに1人だけなんですよ(笑)。やっぱり最終的にはクリエイティビティーなのだと思うんです。より強く、よりエッジィな視点で他と差別化できるコンテンツが作れるということが一番の強みになり、広告のクライアントに対するビジネスが成立するのだと感じます。
渡辺:同じようなものばかり並んでも価値は生まれません。同質化する状況に一石投じられる存在になるといいですね。