【連載】会社員が自転車で南極点へ5 出発地点「南緯88度59分」
出発地点である南緯88度59分に到着
【連載】会社員自転車で南極点へ5 出発地点「南緯88度59分」
ユニオングレーシャー基地から飛び立った飛行機は、途中休憩を挟みながら、約5時間後、今回の旅の出発地点である南緯88度59分に到着した。辺りは見渡す限りの大氷原。雪と氷以外、何一つ、目に入るものはなかった。雪は柔らかく、足を踏み入れれば、さっくりと靴の底が沈んだ。 【連載】(前回分)会社員自転車で南極点へ4 空の上「息苦しい程の後悔」
普通のサラリーマンでも南極へ行ける時代
今回、飛行機に乗っていたのはパイロットやスタッフを含めて10人弱。そのうち、6人が南極点を目指す旅行組だった。僕はガイドのエリックと共に自転車で南極点を目指す。一方で残りの4人はスキーで南極点を目指すのだ。 かつては命がけの冒険だった南極点への冒険も、技術が進んだ現代においては、比較的気軽に参加できる旅行のひとつになった。(ちょっと旅行費用は高いけれど・・・) 特別に許された一部の冒険家や研究者だけでなく、例えば、僕のような普通のサラリーマンであっても、「行きたい!」と思えば行ける時代になったのだ。 数億円単位でかかった旅行費用も、今ではぐんと下がって、数百万円で南極大陸に滞在し、南極大陸最高峰のビンソンマシーフへの登山や、南極点へのスキー旅行ができるようになっている。これからは、もっと下がっていくだろう。
ここまで来たら、もう後には引けない
勿論、南極へのハードルが下がったからといって、南極の魅力が薄れたわけではない。厳しい規制によって南極の自然は守られているため、かつてアムンゼンやスコットが冒険した白銀の大地は、100年前と全く同じ姿で僕達旅行者を迎えてくれるのだ。 飛行機から、荷物が次々におろされていく。これからの旅で必要な食料、燃料、テント、寝袋、ソリ・・・そして自転車。荷物を下ろし終わると、飛行機はゆっくりと向きを変え、ブルブルと大きなプロペラの音をたてながら、真っ青な空に飛び去っていった。 僕は大きく手を降った。 「ここまで来たら、もう後には引けない」「生き残るには、南極点に行くしかない」覚悟を決めた。照りつける太陽の光が雪面に反射して、辺りはカメラのフラッシュをたかれたときのように目も開けられないほどに輝いている。 これからいよいよ、始まるのだ。僕にとって、一生分の給料、ボーナス、お小遣いを投入した、人生最大で最後の自転車旅行が──。