スンニ派過激派が「イスラム国」樹立 狙いと今後の影響は?
6月末にISIS(イラクとシリアのイスラム国家)という組織が、「イスラム国家(IS)」の樹立を宣言し、その指導者のアブ―バクル・アルバグダーディを「カリフ」に選びました。
支配地域はシリア西部からイラク北西部
そもそもイラクで活動していたISISという組織は、その活動範囲をシリアにも広げ力をつけてきました。当初はアルカーイダの系統とされていました。だが、処刑場面をネットで公開するなどの手法を批判してアルカーイダは、ISISを破門した形になっています。 そのISISが6月にイラク北部で攻勢に出ました。シーア派のマリキ首相の政権に不満なスンニー派部族やフセイン時代の支配政党であった旧バース党の残党などの協力を得て、イラク第二の都市モスルを含む北西部の大半を電撃的に制圧しました。この勝利を受けての前述のイスラム国の樹立でありカリフの選出でした。 その支配地域はシリアの西部からイラクの北西部に広がっています。重要な点はシリアでは油田地帯を支配下においており、それなりの安定した収入源を確保している点です。また軍事的な成功によって人気が上昇し、アラビア半島の産油国の豊かな個人からの寄付も増えています。さらに、このカリフの下で戦おうという急進的な若者が世界から馳せ参じています。特に欧米のイスラム教徒が多く参加しています。この「国家」は、SNSを利用した巧みな宣伝を展開しています。
イラクとシリアの統合狙う「イスラム国」
カリフというのはイスラムの創始者である預言者ムハンマドの後継者という意味です。ということは、選出されたカリフは、全てのイスラム教徒の指導者ということになります。 シーア派の大国イランや、イラクのシーア派のマリキ政権、またアラウィー派(シーア派の分派とされる)のシリアのアサド政権には、スンニー派のイスラム国家の樹立宣言は何の意味も持ちません。サウジアラビアなどのスンニー派諸国にとっては影響があります。それは国民が、このイスラム国家に魅力を感じるとすれば、過激化し自国の指導者ではなくカリフの方に忠誠を誓うようになるからです。特に影響を受けるのが、アルカーイダなどの過激派組織です。過激派組織の間では、世界のイスラム教徒の支援を求めての競争があります。このイスラム国は、最近の軍事的成功に裏打ちされて人気を高めています。 イスラム国はシリアとイラクの統合を狙っています。しかし、周辺諸国の激しい反発をうけています。しかも、協力関係にあった旧バース党員やスンニー派部族との対立も表面化しつつあります。イスラム国の将来は不透明です。 (高橋和夫・放送大学教授)