安保法制で自衛隊の海外派遣はどう変わる? 米国の「期待」に応えきれるか
集団的自衛権の行使を可能にすることなどを柱とする安全保障関連法が成立しました。採決をめぐって与野党が未明まで攻防を繰り広げたこの法制は、戦後70年の日本の安全保障政策の大転換だと評されます。アメリカは法改正を歓迎していますが、法案審議では「違憲」問題が注目されたほか、法律の条文と国会での政府の答弁との「乖離」も目立ちました。今回の法整備で、日本はどのように変わるのか、あるいは変わらないのか、安全保障問題に詳しい元外交官の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。 【写真】集団的自衛権とはどう違う? 「集団安全保障」とは
「集団的自衛権」と「集団安全保障」
安全保障関連法が成立したことによって、日本の対外関係にはどのような変化が生じるでしょうか。 改正法案が国会に提出された当初、自衛隊が日本の領域外に出て活動することが想定されていたのは、「集団的自衛権の行使」に関わる事例と、「集団安全保障」に関わる事例でした。法案は成立しましたが、これらの事例は自衛隊の新しい任務になるでしょうか。必ずしもそうではないようです。 特に機雷の除去は、国会での審議が始まる前から重要な事例だとみなされていましたが、安倍首相は国会の会期末近くになって、「今の国際情勢に照らせば、現実問題として発生することは具体的に想定していない」と答弁したので、機雷除去は法改正で自動的に自衛隊の新しい任務になるわけではないと思われます。 避難してきた日本人を乗せた米国の艦船が第三国から攻撃を受けた場合についても、中谷防衛相は、日本人でなくても自衛艦の派遣が考えられるという説明に変えましたが、将来も米艦への防護を行う点では変わらないようです。
PKOで「駆け付け警護」が可能に
一方、国連決議に基づいて行われる「集団安全保障」 の関係では、国連平和維持活動(PKO)といわゆる「多国籍軍」への協力が重要な問題です。 PKOについては、国際紛争に巻き込まれる危険はありませんが、自衛隊は、これまでできなかったいわゆる「駆け付け警護」が可能となり、同じ場所で活動している他国の隊員が危険な状況に陥った場合救助に駆け付け、必要であれば武器も使用できることになりました。これによって自衛隊は各国のPKO部隊と同等の活動ができるようになり、日本は国際社会における責務を十分に果たせるようになりました。今回の法改正で積極的に評価できる面です。 一方、「多国籍軍」が組織あるいは派遣されるのは通常紛争が終わっていない場合であり、自衛隊がこれに協力すると国際紛争に巻き込まれる危険が大です。改正法は、自衛隊の活動を「非戦闘地域」に、かつ「後方支援」に限れば問題ないとの考えに立っていますが、やはり敵対行為とみなされるという有力な反論があります。 イラク戦争の際に自衛隊が派遣されたのは「多国籍軍」への協力のためでした。今後は、仮定の話ですが、過激派組織ISが勢力を拡大して中東の産油地帯を支配下に置き、そのため我が国などへの原油供給が大幅に減少するに至った場合、自衛隊は米軍などの空爆に協力できるかということなどが問題になり得ます。改正法が定める要件を満たすと政府が判断すればそれも可能となりました。