安保法制で自衛隊の海外派遣はどう変わる? 米国の「期待」に応えきれるか
「自衛」という風船はもう限界?
一方、米国など諸外国は日本の法改正をどのように評価するでしょうか。 安倍首相は国会での審議が始まるのに先立って訪米し、オバマ大統領に対してはもちろん、米議会でも法改正の趣旨を説明し、高い評価を得ました。改正された法律に従って自衛隊が米軍の活動に協力すれば、米軍の負担はかなり軽減されるでしょう。心強い味方となります。オバマ大統領の喜色満面の表情 が今も目の前に浮かんできます。 国会審議では、今回の法改正により米国の日本に対する信頼感が高まり、第三国からの攻撃に対する抑止力が働くという趣旨の答弁が行なわれました。しかし、抑止力は程度問題であり、「これだけ措置すれば抑止力が得られる、そうでないと抑止力は働かない」というようなことはありません。 今回の法改正を米国は積極的に評価していますが、米国の我が国に対する期待感を完全に満たすものでないことは明白です。 例えば米国は、日本や欧州諸国が防衛にどれだけ予算を割いているか、かねてからよく研究しており、とくに欧州諸国に対しては予算を増加させるようおおっぴらに要求しています。防衛予算のGDP比は、米国自身は3・5%程度ですが、欧州諸国は、英仏など多い国でも2%程度であり、少ない部分を米国が肩代わりしていると考えているからです。このことはNATOでも主要問題の一つになっています。 日本の防衛予算は安倍政権下で微増していますが、GDPとの比率では1%をわずかに越えたレベルです。今後、米国は、防衛政策を大転換した日本に対して予算増、しかも、小数点以下の微増でなく、かなりの増額を求めてくる可能性があります。それは、論理的で、自然な考えだと思います。 これは一例にすぎません。米国には、米国本土が第三国から攻撃されても日本は米国の防衛に協力する義務はないことに不満を示す人も居ます。 米国による「抑止力」を高めるには、本当は日米安保条約を改定する必要があります。それをしないで、日本の法改正だけで抑止力ができるというのは事態をあまりにも単純化しています。 今回の安保関連法の改正は、集団的自衛権の行使を認めたという点では確かに日本の防衛政策の大転換でしたが、抑止力を高める必要があるというならば、安保条約を改定し、日米が平等な立場に立つようにすべきかについて、国民的議論を行なうべきではないでしょうか。 また、それとの関連で、憲法についても改正が必要か議論になるでしょう。日本はこれまでどのような事態に対しても「自衛」という風船を膨らませることで対応してきましたが、それは限界を超えて破裂しているのが実態であり、見直すべき時が来ているとも考えられます。
■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹