脅しも暴力も無用。大手ゼネコンの極秘案件、明暗を分けた“デキる”ヤクザの交渉術
粘り強さとキメ細やかさが必要
一方、B不動産系の組員たちも当初は苦労した。A土地と同類視され、不動産屋の名刺を差し出した途端に頭から水をぶっかけられもした。 かといって、そこで、 「おどリャあ! よくもやりやがったな。よっしゃ、上等じゃないか! てめぇら、首を洗って待っとけよ!」 などと、暴力団丸出しに呻りまくったのでは元も子もなかった。グッとこらえたB不動産、嫌がらせや脅しの代わりに何をやったかといえば――地主、借地権者の代替地、つまり引っ越し先を懸命に探し、なおかつ、彼らの家族構成まで調べあげたのである。 「ただ漠然と、どこでもいいからと引っ越し先を見つけてあげるだけではダメなんだ。たとえば老人所帯であるなら、陽当たりがよく、環境のいい郊外の土地を、あるいは子どものいる借地権者なら教育環境の行き届いた地域を振り当ててやる――という具合に、キメの細かい配慮をしてやったことが、好結果を生んだわけだよ」(B不動産系組幹部) もちろん立ち退きをせまられた人のなかには、いわゆる“ゴネ得”を通そうとする者もあった。B不動産はそういう連中のいい分も可能な限り聞いてやったのである。 かくて最後に笑ったのは、B不動産の看板を掲げるヤクザ組織のほうだった。都内一等地の地上げに成功、結果的に費やした資金の額も、札束の力で立ち退きをせまったA土地の7割がたで済んだという。 力一点張りの押しだけでなく、交渉のなかに相手のいい分をギリギリまで取り入れ、サジを投げずに最後まで執拗な交渉を重ねていくこと――これこそが錬金交渉術の極意というものであったろう。