省みる遺言 「認知していない我が子に遺産を渡したい」
「基本的には認知していない子供に法定相続人としての資格はありませんので、そのままでは相続できません。しかしながら生前贈与や、財産の一部を隠し子に『遺贈』するという遺言書を作ることで渡すことはできます」 財産が合計(現金と持ち家)1億2000万円で、法定相続人が妻、子供1人の場合、法定相続では妻と子供が6000万円ずつ相続することとなりますが、遺留分を考慮すれば、例えば妻を3000万円、子供を3000万円にすることが法的に可能です。法定相続人の法定相続額を最大半分まで減らすことが可能なためです(詳細は第1回「母の恨みの遺言 『長男に遺産はびた一文、渡したくない』」を参照。下記関連記事)。こうすることで、認知していない義明さんには最大で6000万円を遺贈できます。 他人の場合、『遺産』ではなく、『遺贈』という形になりますが、それを実行するためには、遺言書を残さなければいけません。 こうしたことを踏まえ、亮介さんは遺言書をまとめたそうです。奥さんの貞子さんは、今住んでいるが家が必要で、もちろん現金もある程度ほしいでしょう。長男の正さんは独立して別の場所で暮らしていて、お金にはさほど苦労していないようです。そこで、遺産の配分は以下のようになったといいます。 妻:貞子さん 持ち家(時価4000万円)と現金2000万円 長男:良介さん 現金3000万円 隠し子:義明さん 現金3000万円の遺贈 これは法的効力を持つ遺言書です。今回の義明さんには、「遺贈」という形を取ってお金を残すことになりました。法定相続人の場合「相続」ですが、そうでない場合は「遺贈」という形になり、いわゆる贈与になります。 遺贈の場合、相続税が配偶者や1親等以内の法定相続人と比べて2割加算されます。また、今回は現金を遺贈しましたが、渡したい財産が不動産の場合は、登記申請に必要な書類が増えて、各種税金も高くなります。このあたりを知りたい方は、詳しい事情を専門家に相談して聞いてみてください。 「遺贈」は年々増えており、最近は寄付団体の遺贈のコマーシャルも見られるようになっています。自分の死後、「他人」にお金を残す(寄付も含め)場合は「遺贈」になるわけです。 ●「お世話になった人」に渡す選択肢もある 今回、亮介さんの気持ちは分かるものの、遺言書の内容を知ったときの奥さんや長男のショックははかり知れません。どれだけの理由を並べても、感情的にすっきりしないでしょう。いきなり知らない他人が出てきて、遺産の一部を持っていかれるのですから。 遺言書は、「自分の意思」を設計することができます。遺留分を考慮すれば、今回のように遺贈という形で他人に残すお金が工面できます。家族でなくても「世話になった人」に渡したい場合は、遺贈という形を検討するのもいいでしょう。 やはり遺言書は残すべきものです。そして法律的なことだけでなく、自分のさまざまな感情も、残された人々の気持ちも考えて書き残すのがよいのではないでしょうか。前回もお話ししましたが、遺言書には付言事項というものがあって、自分の気持ちを作文にして残すことができます。「本当に申し訳ない」といった謝罪や「これまでありがとう」といったお礼の一言でも、残された家族の心の癒やしになるかもしれません。
山村 幸広