省みる遺言 「認知していない我が子に遺産を渡したい」
亮介さんの葛藤を知ってのことか、愛理さんは妊娠が分かってから、亮介さんと急に距離を取るようになります。「私が独りで育てるから。認知もしなくていい」と言うのです。「会いたい」と言っても断られることが多くなり、次第に連絡頻度も落ちていきました。そんな状況が続いた後、子供は愛理さんが独りで産んだそうです。 亮介さんはその後も、愛理さんや生まれた息子(義明さん)に会うことができずにいました。ですが、金銭のサポートだけはしたいと申し出て、わずかながらではあるものの定期的に愛理さんにお金を送っていました。しかし数年前に突然、愛理さんとの連絡が完全に途絶えてしまいます。どこに住んでいるのか、どんな生活をしているのかも分からなくなりました。 亮介さんは愛理さんの居場所を必死で調べましたが分かりません。亮介さんはもう半分、諦めてしまっていました。ところが最近、人づてに愛理さんの情報が入ってきたのです。それはとても残念な知らせでした。愛理さんは数年前、連絡が途切れた数カ月後に、がんで亡くなっていたのです。 亮介さんと愛理さんの子供である義明さんは現在25歳。結婚して子供も生まれていました。「義明は私のことをどう思っているのだろうか」「愛理は私のことをどんなふうに話していたのか」「自分には今、何ができるのか」……。そんな思いをめぐらせてたどり着いたのが、「あの子にも自分の遺産を渡したい」という素直な気持ちでした。 「不倫のこと、子供のことをこれまでずっと隠してきた家族には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだが、自分も70歳でもう長くはない」。そんな気持ちで弁護士に相談しにいった亮介さん。いったいその後、どうなったのでしょうか。 ●認知していない「他人」でも渡す方法はある 大人の事情の中で隠し子に自分の遺産を渡したい。今でもこうした相談を弁護士はよく受けるそうです。子供を認知している場合は、普通の家族と同じ割合で法律上、遺産を相続する権利を持っているわけですが、隠し子の場合は法定相続人とはなりません。 改めて認知する方法もありますが、戸籍に名前が載るため、家族にばれる危険が高まります。亮介さんはこれまでもずっと愛理さんと子供のことを家族に隠してきました。もしかしたら、できれば自分が死ぬときまで隠し続けたいのかもしれません。そうなると認知せずに財産を隠し子である義明さんに渡したいということになります。 どちらにせよ、隠し子が発覚すれば、一騒動あることは間違いなく、それはもう仕方がないでしょう。義明さんには生まれたばかりの子(亮介さんにとっては孫)がいるわけですから、その子の将来も心配になるでしょう。少しでも、何らかの形でお金を渡したいというのは、心情として当然かと思います。 さて、認知していない隠し子に、実際に遺産を分け与えることはできるのでしょうか。亮介さんの財産は、現金約8000万円(すべて銀行預金)で、持ち家は時価約4000万円です。イントリム司法書士事務所の司法書士、市川俊介氏は以下のように答えます。