「チェコのジャッジ」が明かす心境と取り組み「相手も自分を研究してくる 負けない」 9月育成契約で巨人入団
巨人の若手選手の今を伝える「From G」。第14回は9月に育成契約を結んだマレク・フルプ外野手(25)。23年WBCチェコ代表で、恵まれた体格とアグレッシブなプレースタイルで「チェコのジャッジ」と称される。現在の心境や日本へ対応するための取り組みを明かし、今後チェコ出身選手がNPBへ挑戦する先駆けとなることを目標に掲げた。また、今季まで2軍ヘッドコーチを務め、フロントに転身した安藤強氏がフルプの人柄、打者としての強みと課題を明かした。(取材・構成=小島 和之) チェコの球史に残る挑戦をスタートさせてから約1か月。フルプは周囲の支えに感謝しながら、日に日に自信を深めている。 「同僚、コーチ、監督が温かく接してくれています。本当にありがたい気持ちでいっぱいで、いい環境で野球に集中できています。来日直後は1か月くらいのブランクがあり、感覚が合わないところもありましたが、試合を重ねることで自信も少しずつついてきて、今は自分のプレーができているんじゃないかな」 みやざきフェニックス・リーグでは、22打数7安打の打率3割1分8厘、2本塁打をマーク。日本の投手について「変化球の精度が非常に高く、配球が賢い」と分析し、米球界で主流だった力勝負とは異なる攻め方への対応に注力した。 「制球がいいということは、相手の配球を読むことができればプラン通りに攻略できるんじゃないかと考えた。今はいい打撃ができていますが、相手も自分を研究してくるので負けないように」 持ち前の対応力で、異国の文化にもすんなりと溶け込んでいる。 「生活面で問題はないし、食べ物は米国にいた2年間よりもおいしい。むしろ、おいしすぎて食べすぎています(笑い)。すし、ラーメン、和牛がトップ3。宮崎で食べたみそラーメンはまさに『オイシイ』だったね。ただ、言語的には、通訳なしではコミュニケーションがとれない状態。自分なりに勉強していますが、早く日本語を習得して、同僚と日本語で話せればと思っています」 チェコ出身選手がNPBでプレーするのは異例。日本でのプレーを決めた理由は何だったのか。 「自分が置かれていた状況(米独立リーグ)より、上を目指したい思いがあった。昨年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でも日本代表は米国を破っているし、NPBは世界トップクラスの舞台。オファーが来た時には、迷いなくプレーしようと決めました。今こうしてジャイアンツに所属したことで、頑張って支配下を勝ち取って、チームの勝利に貢献できると信じています」 かねて日本という国、文化への憧れを抱いていたことも決断を後押しした。 「WBCや親善試合で東京ドームで試合をした時に、『野球は日本で一番人気のあるスポーツ。ファンがたくさん集まる大歓声の中で野球ができたら』と思ったこともありました。また、食事はすごくおいしく感じたし、文化的にも好きだったので、生活してみたいとも思った。もし日本でプレーできるなら、約1年間生活できるんだな…という考えもありました」 チェコ代表と言えば、昨年のWBCで日本代表と対戦。佐々木朗希(ロッテ)が死球を与えたエスカラへの謝罪のために宿舎を訪れ、お菓子を持参したことが話題となった。当時のことは、心温まるエピソードとして両国の関係性を深めた。フルプにとっても印象に残っている。 「チェコ代表でもすごく大きな話題になっていました。その後、エスカラ選手は日本のファンからもたくさんのメッセージを受けたそうですし、その後は米国でも有名になったんです」 今月9、10日には国際大会「プレミア12」に臨む侍ジャパンとの壮行試合にチェコ代表として臨む。巨人の投手では、戸郷、大勢、井上が選出されており、大舞台での対戦を心待ちにしている。 「なかなか難しい試合になるとは思うけど、我々が持っている力を全部ぶつけて勝ちたい。今後1軍でのチームメートになるかもしれない選手だから、できるなら対戦してみたいし、とても楽しみにしています」 次世代のチェコ出身の球児たちに、希望を届けたいという思いも秘める。 「私がNPBと契約したことは、チェコでも大きなニュースになりました。自分が活躍することで、チェコ球界を盛り上げられるだろうし、日本にもチェコの野球を紹介できるいい機会になる。自分の活躍次第ですが、他のチェコ出身選手がさらに大きな舞台で野球ができるきっかけにもなるんじゃないかな、という期待もあります」 大志を抱き、日本での成功をつかみ取る。 ◆安藤強・前2軍ヘッドコーチ フルプを見て感じるのは、巨人という環境でプレーできるチャンスをもらったことへの感謝をすごく持っているということです。連日、食後に打ち込みを行っていますし、見えないところですごくいい努力をしている。ウォーミングアップやランニングなど、野球に対する姿勢はとても優れています。 打撃面では、日本特有のスピンの利いた直球への対応が課題です。最初は右肩が下がって後ろが大きくなるスイングで、投球に遅れ気味になっていましたが、日本投手の特徴をよく知るウィーラーコーチと話し合い、できるだけトップの位置からそのまま打ち出す形をつくろうとしています。 パワーはありますから、ヒットの延長が長打というスタイルを目指していくことになるでしょう。来日後、実戦が少ない中で3本塁打を放ちましたし、野球への取り組み方も含めて将来的に伸びていく可能性を秘めていると感じます。(前2軍ヘッドコーチ) ◆マレク・フルプ(Marek Chlup)1999年1月9日、チェコ生まれ。25歳。米ノース・グリーンビル大を経て、2023年から米独立リーグのレイク・カントリー・ドックハウンズでプレー。23年のWBCにはチェコ代表として出場。右投右打。193センチ、99キロ。
報知新聞社