古今東西 かしゆか商店【花ござの寝ござ】
日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回訪ねたのは福岡県の柳川。畳の素材にもなるイグサを美しい色で染めて織る敷物、「花ござ」と出会いました。 【フォトギャラリーを見る】 畳の手触りやすがすがしい香りが大好きです。でも今の生活に取り入れるのは難しいだろうな、と思っていたところ、畳の材料になる植物、イグサで織る「花ござ」の存在を知りました。これなら現代の住宅やマンションでも使えそうです。 「花ござは1400年の歴史を持つ敷物。京都の法輪寺には、推古天皇が使っていた日本最古の花ござも伝わっているんですよ。イグサは断面に空気穴があって湿気を調整するので、熱がこもらない。夏にはもってこいなんです」
そう話すのは、1947年(昭和22)に福岡県の柳川で創業した〈松正〉の代表・松永正晴さん。 「花ござの特徴は、イグサを染色して文様を織り出すこと。まずはミネラルが豊富な土壌で育ったイグサを、泥に浸けて下地染めします。泥染めをしておくことで、その後の染色のムラを防ぎ、イグサ独特の香りも引き出すんです」
工場では織りの工程を見学。図案データを読み込ませた織機に、いろんな色のイグサがかけられています。緯糸が「イグサ」で、経糸は「木綿の糸」。織り上がるのは、シンプルな幾何学柄や花鳥風月などの伝統柄を表した、長さ数mの “花ござの反物” です。この反物をラグや座布団に加工するのですが、実はその前の仕上げが肝心。
イグサがちぎれている部分や織りの間違いを、人の目と手でチェックするんです。担当はこの道40年のベテラン職人さん。手のひらで花ござの表面をなで、上下左右に目を走らせるだけで、瞬時にダメージ部分を見つけます。千枚通しや糸切りバサミであっという間に補修する、その速さと正確さに息をのむばかりです。
最後は反物状の花ござを裁断・縫製して作ったラグなどがずらりと並ぶ保管部屋へ。色や柄が想像以上にかわいくてびっくりします。淡い色をグラデーションで組み合わせた花唐草や菊錦も素敵だし、能装束をヒントにした鳳凰柄も魅力的。何より惹かれたのは、シンプルな文様がエンボスのように浮き上がる無地柄です。