どこに行っても、泊まる場所や食事に困らない! 世界を網羅するモバイルアプリ「ラ・リスト」。
もしあなたが、モーリタニアの街角で一人で食事をしなければならないとなったら、途方にくれるのではないだろうか。そんなときに頼りになるのが「La Liste」というモバイルアプリである。それは世界200カ国35000軒以上のレストラン、3000軒のパティスリー&ブーランジュリー、トップ7000軒のホテルを網羅したランキングサイトなのである。 【画像】もっと写真を見る(4枚) 目的地を検索すると、ただちに行く価値のあるレストランが、何軒か表示される。住所などのデータのほかに、ゴールド〈トップ1000ランクイン店〉、シルバー〈現地基準でクオリティーの高い店〉、赤〈地元の一軒、発見の一軒、家庭的な店〉といったカテゴリー分けされる。トップ1000軒のなかでは100点満点の得点も表示され、ランキングがわかる仕組みになっている。パティスリー、ホテルの分野をクリックすれば、同様に優良店を見ることができる。つまり、このアプリさえダウンロードすれば、世界のどこに行くへも、食べ、泊まることに困ることはないのだ。 実は、このラ・リストは、これまでのインスペクター(調査員)ありきのガイドとは全く異なり、全世界の既存のメディアを一定のアルゴリズムで集積してランク付けするという独自のシステムに基づいている。世界1010以上のガイドブックや出版物、また、SNS発信者によるレビューなどを集積し、それぞれのステイタスや特性を独自の荷重変換で0~100まで0.5点刻みで点数化されるというものなのである。 どうやってこうしたアルゴリズムを思いついたかを、創始者であり、外交官などを歴任したフィリップ・フォール氏に聞いた。「限られた人間の評価よりも、分析された甚大な評価を集計再分析したほうが、より正確な結果が得られると思い、アルゴリズムに行き着きました。地球の上を『ラ・リスト』というドローンが飛んでいて、いい香りのするところへ降りて、蜂蜜を集めてくるのと同じと考えてください」と、いとも簡単に言う。 しかし、そんな膨大なデータの集積が簡単にできるものであろうか。特にコロナ以降、食の世界の変動の激しさもあり、実際にはそれらを反映するために世界中に30~40人の食の専門家が諮問委員として配置されており、新たな注目店や営業状況、さらには見落とされがちな地元の情報についてパリ本部に伝え、すでに集積してあるデータに加えてアルゴリズムで計算するといった仕組みのようだ。テニスのATPポイントのように、重要なガイドとそうでないものでは、同じ順位でも配点が変わってくるのである。 では、ほかのランキングに比べてのメリットは何であろうか。それは、圧倒的な世界網羅力と軒数だろう。そして、もうひとつ、大切なことが、公明正大性。「ミシュランの星は買えるというような記事がNYタイムスで躍ったり、『世界のベストレストラン50』の順位にも金銭的なものと絡んでいるといったうわさがありますが、われわれのシステムにおいては、一切そういった金銭的な援助や絡みはありません」とフォール氏は断言する。 また、もうひとつの特徴が、「レストランの新たなスタイル提案賞」「サステイナブル・環境賞」「未来のガストロノミー賞」「格式と伝統賞」など、たくさんの特別賞が設けられていること。これもラ・リストの特徴のひとつで、現代のガストロノミーへの貢献をたたえ、食の世界を担う一因としてその発展を支援するためにほかならない。 日本は本システム創設の2015年より、トップ1000軒にランクインする店を最も多く有する国。2025年版でも126軒がノミネートされている。11月25日にフランスのパリで、全世界のトップ1000軒を発表するアワードが開かれるが、それに先んじて、去る10月23日にフランス大使公邸で、アラン・デュカス氏、ギー・マルタン氏などフランスから有名シェフを招聘(しょうへい)し、ノミネートレストランおよび特別賞受賞者を祝う、前夜祭とも言うべきパーティーが開かれた。特別賞を受賞したシェフたちは次々と壇上で記念のシャンパンと共に、ベルナルドのオリジナルプレートを受け取り、高々と頭上に掲げていた。果たして11月25日、最高位をどの店が獲得するのか、楽しみにしたい。 小松宏子 フードジャーナリスト。料理研究家の家庭に生まれ、幼いころから料理に親しむ。雑誌や料理書の編集・執筆を通して、日本の食文化を伝え残すことがライフワーク。『茶懐石に学ぶ日日の料理』(後藤加寿子著・文化出版局)では仏グルマン料理本大賞「特別文化遺産賞」、第2回辻静雄食文化賞受賞。
朝日新聞社