新型iPhoneでアップルが描く「パーソナライズされたAI時代」
求められるアップルへの重い責任感
■次にもう一度iPhoneを買う理由 これまでiPhoneにはさまざまな理由で「次の買い換えでもiPhoneを購入しよう」と思わせる理由が組み込まれていた。独自の方法で実装されている便利な機能があるからだ。例えばAirDropやiMessageなどだ。決定的ではないにせよ、SharePlayなどもプラットフォームに留まる理由になるかもしれない。 しかし、いずれは業界標準へのシフトは進む。 クラウドで写真やファイルをやりとりするハードルが下がり、業界標準のメッセージサービスとしてRCS(リッチコミュニケーションサービス)が普及しようとしている。iPhoneのプラットフォームに縛りつけておく効果は、徐々に薄れている。ユーザーインターフェースや機能、基本的な部分での使いやすさなどはiPhoneとそれ以外のプラットフォームでの差はかなり小さくなった。 いずれ新しい機能に対する要求が下がってくれば、必然的に買い替えのサイクルが長くなり、iPhoneの求心力は低下していく。 しかしApple Intelligenceは、次に買い換える際にiPhoneにとどまる大きな理由になるかもしれない。 あくまでも可能性の話ではあるが、ユーザーの家族構成や友人との関係、仕事上の人間関係などを把握した上で的確なアドバイスができるようになり、ユーザーの好みを反映して適切なアドバイスを行うようになり、さらに、Apple Watchのようなデバイスと連携することでユーザーの健康状態や生活習慣を長期的に分析し、パーソナライズされた健康アドバイスを提供することも可能になるはずだ。 深い理解と的確なサポートが行えるようになれば、ユーザーとアップル製品との関係を単なる「デバイスの所有」から「不可欠なライフパートナー」へと変化するだろう。Apple Intelligenceは、すでに生活必需品になっているスマートフォンの価値をさらに引き上げる可能性がある。 そしてそれは、アップルのプラットフォームからの離脱を結果的に下げることになる。長期的に関係を築くほどに、よりアドバイスが的確になりApple Intelligenceが蓄積した自分に関する深い理解と、それに基づくサポートを失うことへの抵抗感が生まれるからだ。 ■求められるアップルへの重い責任感 一方で、包括的な個人情報の収集と利用には、プライバシーやセキュリティの面で大きな責任がともなう。また、AIへの過度の依存や人間の判断力の低下といったリスクについても考慮が必要だ。 また同時に、テクノロジーと人間性のバランスをいかに保つかが大きな挑戦となるだろう。Apple Intelligenceの成功は、AIと人間の共存のあり方に1つの回答を示す可能性がある。その評価に関しては、簡単に数カ月で下せるものではない。個別化されたAIがもたらす変化と倫理的問題について、社会全体で議論を深めていく必要がある。
本田雅一