現代社会で「子どもの知性」をどう育てるか ?自然のなかで導き出された「ある教え」とは
春山:外遊びは知性にいちばん響く、知性を鍛えると思っていて、このことをテーマに今年の春、対談本を出しました。慶応大学教授の安宅和人さんが『ハーバード・ビジネス・レビュー』に「知性の核心は知覚にある」とも書かれています。 私が思うに、人類最大のイノベーションは歩くこと。平らな場所をまっすぐ歩くだけでもかなりの情報を脳処理していると思います。歩く場所を山にすることで、空間認知能力も育てることになるかと感じています。
窪田:確かに。私も今年ベトナムで山歩きをしました。進むのに木の枝をつかまないといけない場所があったのですが、中にはとげがついている枝もあり、 どの枝をつかむか瞬時に判断しなくてはならない。自然の中には良いトレーニングがあると実感しました。 春山:おっしゃるとおりです。山の中を一歩一歩進んでいくと、滑りやすいところがあったりするので瞬時の判断力が求められます。ある程度歩いて振り返ると山麓からは高度があり、結構高くまで登ったことを実感できます。また道に迷わないよう周囲を注意して歩きますよね。
■山で育まれる真の空間認知能力 テレビや動画、ゲームは画面が変わらないと見ている景色が変わりません。ですが、山をはじめとする自然の中では、自分が歩くことや動くことで見える景色や世界が変わる。この感覚を頭でも身体でも理解することがとても重要ではないでしょうか。 春山:ベストセラーとなった『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)で、非行に走った子たちはホールケーキを3等分できない、認知機能に問題を抱えていることが多いという話が書かれていました。ずっと室内で過ごしている、関わる人間が自分の親だけといった閉じた空間での生活空間となり、認知能力が育たなかったのではという……。
これは私なりの解釈なのですが、空間認知能力が発達するということは、「今これを言うと相手が傷ついてしまうな、場が止まってしまうな」という他者の心理まで想像ができることでもあるかと思っています。 窪田:それはとても興味深い考察ですね。社会性も自然の中で育てることができるというわけですね。 春山:はい。人間にとって昔ながらの自然環境が、身体だけでなく知性や共感力を鍛えられる最強の教室なのではと考えています。