大補強したFC東京が10年ぶりの敵地での鹿島撃破に見せた変革の一端
まるで優勝したかのような光景が、敵地カシマスタジアムのピッチに刻まれた。勝利を告げるホイッスルが鳴り響いた瞬間、FW大久保嘉人はゴール裏をFC東京のチームカラー、青と赤で染めたサポーターたちに向かって両拳を何度も突き上げた。 1993年5月15日に産声をあげてから25年目を迎えたJリーグが25日に開幕。昨シーズンの覇者・鹿島アントラーズと、クラブ史上でも例のない大型補強を行ったFC東京が対峙した注目の大一番は、後半37分に生まれたオウンゴールが決勝点となって、1‐0で後者に凱歌が上がった。 FC東京がカシマスタジアムで勝利したのは2007年6月30日以来、実に10シーズンぶりとなる。キックオフ前の通算成績が1勝4分け10敗と、文字通りの鬼門の地で手にした価値ある白星に、このオフに川崎フロンターレから完全移籍で加入した大久保が「ホッとしたね」と声を弾ませる。 「やっぱり不安だったからね。相手は鹿島だし、どんな形でもいいから勝ちたいと思っていたので」 オフの間にここまでメンバーが入れ替わったチームも珍しい。昨シーズンのリーグ最終戦に先発したFC東京の選手で、アントラーズ戦のキックオフをピッチの上で迎えたのは、キャプテンの森重真人、丸山祐市ら5人しかいない。 代わりに大久保をはじめ、GK林彰洋(サガン鳥栖)、DF太田宏介(フィテッセ)、MF高萩洋二郎(FCソウル)、そしてMF永井謙佑(名古屋グランパス)の新加入選手5人がスタメンに名前を連ね、全員が90分間フル出場を果たした。 5人全員が日本代表経験者。大型補強の目的を、立石敬之ゼネラルマネージャー(GM)はこう語る。 「ACLを獲りにいきたい、という狙いを社長および監督とは話しています」 狙いを定めるのは2018シーズンのアジア制覇だ。 昨年7月にコーチから昇格する形で就任。12試合で8勝2分け2敗の好成績を収めて、低迷していたチームを蘇生させた篠田監督が掲げる「ハイプレスからのショートカウンター」を、さらにバージョンアップさせるメンバーに白羽の矢が立てられた。 昨シーズンのチーム最多得点は、元日本代表のFW前田遼一があげた6ゴールだった。だからこそ、フロンターレで前人未踏の3年連続得点王を獲得し、通算171ゴールで歴代ランクのトップを独走する34歳の大久保に求められる役割は明白だ。 「この年で普通はオファーなんか来んよ。だからこそ、もう一回、挑戦しようと思った。ずっと同じところにおるのも、何か面白くないしね。安パイでおりたくない。そういう性格なので」 新チームが始動してから約40日。ようやくお互いの特徴が分かり合えた段階であり、篠田監督も「チームの完成というのは開幕へ向けてできるわけではない」と、新たなコンビネーションを構築する第一歩を踏み出したばかりだと認める。