ウクライナの勝利を願う人々の気持ちを逆撫でする「トランプの戦争終結プラン」が、ここにきて「現実味」を帯びている理由
バイデンの大失敗
ジョー・バイデン大統領と直接対決になった米大統領選の討論会で、ドナルド・トランプ前大統領が「ウクライナはロシアとの戦争に勝利できない」と語った。バイデン氏は討論会で大失敗し、トランプ優勢という見方が広がっている。戦争の行方は、どうなるのか。 【写真】大胆な水着姿に全米騒然…トランプ前大統領の「娘の美貌」がヤバすぎる! 世界の注目を集めた討論会で、バイデン氏はたびたび言葉に詰まり、話の趣旨も一貫していなかった。米メディアは「破局的な失敗」という評価で一致している。6月28日付のニューヨーク・タイムズは「バイデン氏は大統領選から撤退すべきだ」という社説を掲げた。 民主党内からは「バイデンに代わる候補を探すべきだ」という声も出ているが、7月4日時点で有力な代替候補は見つかっていない。それどころか、討論会翌日の6月29日にキャンプデービッドの大統領別荘に集まったバイデン氏の妻、ジル・バイデン氏ら家族は「選挙戦を戦い続けるべきだ」と励ました、という。 民主党の混乱は、しばらく続きそうだ。 討論会での焦点の1つは、ウクライナ戦争に対する姿勢だった。トランプ氏は、こう語った。 〈ウクライナは戦争に勝っていない。彼らは兵士を失っている。大変な数の人々だ。彼らは兵士を失い、1000年の歴史をもつ金のドームがある豪華な都市を失った。すべてはバイデンの馬鹿げた決定のせいだ。もしも私が大統領だったら、ロシアは攻撃しなかっただろう〉 〈彼ら(ロシア)はオバマやバイデンから多くの土地を奪った。トランプからは何も奪っていない。何もだ。プーチンは(私だったら)そんなことをしない。私とはゲームをするつもりはないのだ〉 敗北とは言わないまでも「ウクライナは勝てない」という見方を、トランプ氏が公然と語ったのは、初めてだ。彼は、かねて「私だったら、24時間以内に戦争を終わらせる」と語っていた。「ウクライナは勝てない」という見方を前提だった、とみてもいいだろう。
ロシアへの全面譲歩
4月7日付のワシントン・ポストは、関係者の話を基に、トランプ氏の戦争終結プランは「ロシアに占領されているクリミア半島と東部ドンバス地域の奪回をあきらめ、ロシアに事実上、明け渡すことだ」と報じた。 多くの人は「やはり、そうか」と受け止めただろう。「24時間以内の戦争終結」と言うなら、ロシアへの全面譲歩を抜きには考えられないからだ。 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は6月14日、クリミア半島と東部4州からのウクライナ軍撤退とロシアに対する経済制裁の撤回、さらに、ウクライナが将来にわたって北大西洋条約機構(NATO)に加盟しない、という3つの停戦条件を示した。 トランプ氏の考えは、ロシア側の言い分に沿っている。 ウクライナの勝利を願う人々にとっては、神経を逆なでするような話だが、これは、まったく考慮に値しないのだろうか。必ずしも、そうとは言えない。同様の考えは、米国の有力な国際政治学者からも、かねて指摘されていたからだ。 リアリズム(現実主義)の立場に立つ国際政治学者として名高いシカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授は、昨年6月に発表した「ウクライナ戦争の先行きには暗闇が待っている」という論文で、早くもクリミア半島と東部4州の奪還の難しさを指摘していた。次のようだ。 〈ロシアは「国家生存の危機に直面している」と信じている。ロシアはクリミア半島のほか、ドネツクとケルソン、ルハンスク、ザポリージャの4州を併合した。これでウクライナ全体の23%だ。それに加えて、おそらく、ドニプロペトロウシク、ハルキウ、ミコライウ、オデッサの4州も併合しようとするだろう。これで全体の43%になる〉 〈一方、西側も2022年2月に戦争が始まって以来、ロシアに対する危機認識は「実存的な脅威(an existential threat)」というレベルにエスカレートした。それはウクライナも同じだ。つまり、戦争当事者のだれもが「戦いに勝利しなければ、ひどい結末が待っている」と考えている〉 〈ロシアは戦闘人口でウクライナの5倍も有利で、大砲の数では5倍から10倍も優勢だ。死傷者交換比率もロシアに有利だ。彼らは消耗戦を戦える。それに、攻撃側は防御側よりも多くの兵員を必要とする。世界で外交的解決を求める声が高まっているが、それはありそうもない〉 〈最終的には、ロシアが勝つだろう。ただし、ウクライナを決定的に打ち負かすことはできない。別の言い方をすれば、ウクライナの体制を転覆し、軍を武装解除し、西側との安全保障取り決めを切断するような、ウクライナのすべてを支配することはできない。それでも、ロシアはウクライナの相当部分を併合するだろう。その結果、ウクライナは機能不全の半端な国家になる。つまり、ロシアは「醜い勝利」を得るのだ〉 〈最大限の目標を考えると、実行可能な平和条約に辿り着くのは、ほとんど不可能だ。もっとも可能性のある良い結末は「凍結された紛争」である。それは容易に熱い戦争に変わりうる。もっとも悪い結末は核戦争だ。それはありそうもないが、可能性は排除できない〉